研究課題/領域番号 |
16K04243
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
木村 力央 立命館アジア太平洋大学, アジア太平洋学部, 准教授 (50517034)
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研究分担者 |
森田 哲也 東京基督教大学, 神学部, 助教 (30747390)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会的企業 / カンボジア / エチオピア / 宗教性 / ハイブリッド組織 / 制度ロジック / 批判的実在論 / 組織文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、社会的貢献とビジネス収益性という競合的な使命を包含する「ハイブリッドな組織」の学術的研究の領域に位置づけられる。そこに、社会的企業の宗教性という新たな側面を加え、更に複雑化したハイブリッド性に内在する課題を、認識論的には批判的実在論の立場に立った質的研究を通じて浮かび上がらせる試みを行った。2017年度の研究で明らかにされた点は以下の通りである。1)ハイブリッド組織研究の理論的枠組みとして援用されてきた「制度ロジック」は、実践者の行為主体性(Agency)の置かれた文脈(Context)がその研究の認識論の中で位置付けられておらず、宗教性という個々人の生き様や、個人や集団の間にある目に見えない関係性及び構造を読み取るのには不十分であること。2)社会的企業を取り巻く流動的な制度や複雑な文化的背景を持つカンボジアやエチオピアのような途上国においては、宗教性、社会性、ビジネス収益性という三つのロジック間における個々人の意思決定行為の背後にある意図やジレンマを丁寧に読み取ることが求められる。3)個々人の生い立ちが社会構造と行為主体との関係性に影響を与えるとするArcher (2003)の概念的枠組みを援用し、信仰を基盤とした企業家達の生まれ育ちや、起業に至るまでの宗教的体験が、彼らの社会的企業活動の中で宗教性に重点を置くかどうかの意思決定要素に影響しうる可能性がある。 カンボジア及びエチオピアの両方において、第一フェーズ調査(宗教的使命、社会的貢献、ビジネス収益性の間の緊張関係の類型の構築)の進展があった。エチオピアにおいて2回現地調査を行った。カンボジア及びエチオピアで集めたインタビュー調査データの解析を行い、上記の理論的気づき・発展があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カンボジア及びエチオピアの両方において、第一フェーズ調査(宗教的使命、社会的貢献、ビジネス収益性の間の緊張関係の類型の構築)の進展があった。 まずカンボジアに関しては、2017年3月に行ったインタビュー調査のデータの文字起こしを行い、分析を行った。その分析結果の一部を、ARNOVA’s 46th Annual Conference(アメリカ、2017年11月)で発表した。しかし、まだ分析が三分の一ほど残っている。2017年3月にインタビューできなかった社会的企業にインタビューを試みたが、予約が取れず実行できなかった。 エチオピアに関しては、エチオピアの社会企業家を対象にした予備調査の分析結果と、文献調査から導き出された理論的枠組みに関するペーパーを、社会的企業研究ネットワークであるInternational Research Conference on Social Enterprise(ベルギー、2017年7月)にて発表した。発表内容は学会公式ウェブサイトでも掲載されている。 また、2017年7月にエチオピアにおいて1回目の現地調査(約3週間)を実施し、26団体28名を対象にインタビューを実施した。その後、新たなサンプル収集と、1回目の調査対象者のフォローアップ・インタビューを目的として、15団体18名を対象として、同年11月に約3週間の現地調査を実施した。そして文字起こしされたデータの解析を行った。その成果を2018年度に行われる学会発表へ向けて論文執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる2018年度は、カンボジア及びエチオピアにおける第一フェーズ調査(宗教的使命、社会的貢献、ビジネス収益性の間の緊張関係の類型の構築)の成果を、13th International Conference of ISTR(オランダ、2018年7月) で発表する。この調査の分析結果の一部を使った理論的フレームワークに関する論文を、学術雑誌へ投稿する予定である。 なお8月にカンボジアにて、足りない部分のデータ収集のためフォローアップ・インタビューを行う。 第二フェーズ研究(ビジネス倫理及び実践に対する宗教的価値の影響の解明)のサンプルを、これまで調査した社会的企業から選び、調査実施の要請を行う。2018年度内でのカンボジア及びエチオピアにおける現地調査を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 第一フェーズのフォローアップ調査をカンボジアでする予定であったが、調査対象の社会的企業の予約が取れず、実行できなかった。またカンボジア及びエチオピアの両方において、現地調査が遅れ、それに伴ってデータ分析が遅れたため、第二フェーズの調査も開始できなかった。これらの要因により、次年度使用額が発生した。 (使用計画) 第一フェーズの現地調査を踏まえた成果を、13th International Conference of ISTRで発表する予定である。また、8月にカンボジアにてフォローアップ・インタビューを行う。さらに、第二フェーズ(ビジネス倫理及び実践に対する宗教的価値の影響の解明)のカンボジア及びエチオピアにおける現地調査を、2018年度内に実施する予定。
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