高齢者に対する施設内虐待防止の取り組みの重要性を指摘する研究は盛んである。しかし、具体的な方法や内容を提示した「施設内虐待防止教育プログラム」の開発に至った研究は希少である。また、その教育プログラムの虐待防止効果は確認されておらず、普及もしていない。そこで、まず、介護職員による高齢者虐待を含む不適切ケアの発生要因を多面的に検討した。その結果、「介護職員の知識・認識不足や人員不足を含む労働条件の悪さ等ではなく、職業性ストレスが最も不適切ケアの発生に影響を与えている」、「職場ストレッサー(ストレス刺激)の存在そのものではなく、ストレッサーに対するコーピング(対処行動)の未熟さ等が介護者自身をストレスフルにし不適切ケアに至っている」といった注目すべき新たな所見が得られた。 この所見を基に介護職員による高齢者虐待を含む不適切ケアに対する情報の共有化・共通認識を図るとともに、対象・場面に応じた多様なコーピングスキルや対人関係知性(ソーシャルスキル)を教授することをねらいとした「不適切ケア防止教育プログラム」を考案し、介護職員を対象とした研修会を開催した。考案した教育プログラムの有用性を評価したところ、不適切ケアに対する意識・認識を高めるために有効であるが、コーピングスキルや対人関係知性を修得するには至らない教育プログラムであることが推察された。 そのため、ストレスマネジメント教育の内容及び教授法を改良した教育プログラム及びテキストを用いての研修会を開催・評価し、更なる改良を試みている。 また、意思疎通の可能な要介護者への聞き取り調査や介護職員への質問紙調査によって不適切ケアの内容及び因子構造を明らかにすることができ、妥当性・信頼性のある6因子構造48項目6段階リッカート法で評定する「不適切ケア防止チェックリスト」(介護職員が自省し意識・行動変容につなげられる尺度)を開発した。
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