研究課題/領域番号 |
16K04246
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研究機関 | 静岡県立大学短期大学部 |
研究代表者 |
鈴木 俊文 静岡県立大学短期大学部, 短期大学部, 准教授 (60566066)
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研究分担者 |
立花 明彦 静岡県立大学短期大学部, 短期大学部, 教授 (20342082)
濱口 晋 静岡県立大学短期大学部, 短期大学部, 講師 (90342302) [辞退]
今福 恵子 静岡県立大学, 看護学部, 講師 (80342088)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 介護施設 / 災害過程 / 福祉避難所 |
研究実績の概要 |
本研究は災害時、介護施設の「業務維持」に加えて発生する「福祉避難所運営」と「派遣支援」の機能向上に有用な「研修教材の開発」を目的に4年計画で取り組むものである。当該年度は事例研究をベースにしたエスノグラフィックアプローチにより、災害発生から平常時に至る介護施設の災害過程を構造的に分析し、その結果を福祉避難所運営に必要な機能との関連で考察した。 1)エスノグラフィックアプローチによる事例分析 対象は、筆者らがこれまでに行ったフィールドワークデータの内、新潟県下5施設の被災施設(震災)及び山口県下2施設、愛知県下1施設の被災施設(豪雨・土砂災害)、計8施設(内訳:特別養護老人ホーム5施設、障害者支援施設3施設)である。災害発生時から平常時に至るまでの内容を被災状況と災害対応者の証言をもとに分析し、福祉避難所機能に共通する5つの対応課題を抽出した。 2)福祉避難所機能としての5つの対応課題 福祉避難所機能としての対応課題は、エスノグラフィックアプローチによって集積した事例をもとに帰納的に対応内容を抽出すること、質的内容分析の手法(マイリングのカテゴリーシステム)によって、演繹的に課題を類型化することを試みた。その結果、①設備・ライフラインの損害に対し業務維持は可能であるか、②備蓄・救援物資に応じて介護内容を維持することは可能であるか、③緊急入所・避難者にも対応できる設備・マンパワーはあるか、④マンパワーを維持し変化に対応できるネットワークがあるか、⑤福祉避難所を閉所できるしくみ(閉所するための資源)があるかという5つの視点で、共通した課題が存在することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は災害時、介護施設の「業務維持」に加えて発生する「福祉避難所運営」と「派遣支援」の機能向上に有用な「研修教材の開発」である。これまでの取り組みから、介護施設における福祉避難所運営に必要な機能として、5つの対応課題があることを明らかにした。それらは、①設備・ライフラインの損害に対し業務維持は可能であるか、②備蓄・救援物資に応じて介護内容を維持することは可能であるか、③緊急入所・避難者にも対応できる設備・マンパワーはあるか、④マンパワーを維持し変化に対応できるネットワークがあるか、⑤福祉避難所を閉所できるしくみ(閉所するための資源)があるかという5つの視点であり、これらの視点は施設種別や被害状況にかかわらず、共通する対応課題である。 次の段階はこれらの研究成果を「教材」に仕立てることであり、当該年度はこれを目標としていた。一方、これまでに明らかとなった福祉避難所運営機能の内、③緊急入所・避難者にも対応できる設備・マンパワーはあるか、④マンパワーを維持し変化に対応できるネットワークがあるか、の2つの対応課題は、具体的な対応内容を教材に記すまでの実態的なデータが不足していることが明らかになった。そこで、これに対応すべく追加調査を設計し実施した。具体的には、近年各県域でネットワーク化が進められている災害派遣福祉チーム(DCAT等)の組織化の実態と具体的な活動内容を捉える調査を加えた。この調査では、平時や災害時活動に同行し、組織体制及び具体的な活動内容の収集と、教材に盛り込むべき視点を考察した。 これらの成果は日本介護福祉教育学会での発表及び2本の学術論文として成果報告し、現在教材の執筆を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査・分析の結果から見出された今後の研究の推進方策は次の2点である。 1)介護施設に必要な「福祉避難所機能」を柱とした教材開発 本研究では、介護施設に必要な福祉避難所機能を5つの対応課題として類型化した。ここで捉えた対応課題は、事業種別や災害規模によらず共通する対応課題といえる。今後はこれらの対応課題をふまえて教材を作成するにあたり、再度事例性を重視した構成に整え直す必要があると考える。その理由は、介護施設に求められる災害対応は、刻々と状況が変化する災害過程に応じた手探りの実践であるという特性をもつ点である。特に、福祉避難所運営に必要な機能は、時間軸をもとに計画的に対応できるものばかりでなく、限られた備蓄と制限を受けた設備、不足するマンパワーにいかに対応できるかとという、極めて個別性の高い実践であり、これらは一般的な解説よりも、事例をもとに福祉避難所運営の方法や視点等の機能を理解することが有用と考えるためである。尚、事例を重視した教材とする点では、研修教材として活用するうえで、効果的な対象が限定されやすい課題も想定される。この点は、次年度モデル研修を行うことにより教材の効果検証をはかる。 2)福祉避難所を閉所するために必要な機能分析 本研究において明らかになったことは、福祉避難所の開設や運営だけでなく、閉所するための課題が存在していることである。また、この課題に対する先行研究はほぼ皆無といってよい。そこで、今後は施設という事業所の運営だけでなく、地域単位での資源や関連する制度をふまえて研究を進めることで、福祉避難所を閉所するためのしくみ化や資源開発につながる成果を得るための研究を応用的に展開することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、これまでに調査・分析を行った結果をもとに、介護施設の「福祉避難所運営」に必要な教材を開発することであった。当該年度の必要経費はこの教材にかかわる印刷製本費を主な費用として計上していた。しかし、福祉避難所運営機能の分析により、教材に盛り込むべき新たな内容が明らかになり、当該年度は、それに対応した加筆(執筆に必要な調査を含む)を優先することとした。その結果、教材印刷を次年度研究の計画に位置付けることとなり、当該年度の印刷製本費未使用分が差額分として生じた。 次年度はこれまでの研究成果をまとめ、介護施設における「福祉避難所機能」を維持・向上させるための視点・内容を整理し、それを研修教材として開発すること、モデル研修によって効果検証をはかることを目指す。当該年度の未使用額については、これに必要な印刷製本費等に充てる。
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