本研究は、沖縄の特定地域から国内外への人びとの移動と定着の過程を対象にした一連の調査研究を受けて立案されており、老年期の都市移住者によって編成された同郷コミュニティ(同郷会や同窓会など同郷人どうしの結びつき)と母村側との交流活動をとりあげる。なかでも、同郷コミュニティの成員たちの参加に支えられている母村の伝統行事に着目する。参与観察とインタビューによる実態把握をとおして、行事継承の意義について考察することを目的とする。3年間にわたり、本部町備瀬集落の年中祭祀および中南部都市圏の同郷コミュニティにおける参与観察を中心に据え、のべ30回の現地調査を実施した。それぞれの概要は以下のとおりである。 1. 母村の伝統行事への参与観察と中心的担い手へのインタビュー。備瀬集落において24回の現地調査を重ね、シニグおよび大御願などの年中祭祀に密着し、供物の準備から執行に至る過程を記録・考察する作業に取り組んだ。豊作・豊漁を祈願するこれらの祭祀は、自然に手を加えて生活の糧を得ていたかつての自給的な暮らしと一体のものであるが、生活環境が著しく変化した現在にあって中・老年期の参加者に過去との連続性の感覚をもたらしていた。また、神人(かみんちゅ)と呼ばれる女性たちが司る祭祀は、ムラにおける生者と死者との関係を調和させ、自然の循環のなかに人間を位置づけようとする営みであった。なお、本部町内15の古集落において年中祭祀の現況を把握するための予備調査も実施した。 2. 都市圏で組織された同郷コミュニティの会合での参与観察および参加者へのインタビュー。備瀬出身の老年期女性で構成される那覇の福女会と中部のホタル会の集いに計11回参加し、展開する語りあいの内容や相互行為の特質を見極める作業を重ねた。その成果を「語りあいの〈故郷〉―都市の同郷会に集う老年期女性たち―」としてまとめた。
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