研究実績の概要 |
特性的楽観性(以下,楽観性)は,適応やパフォーマンスの高さと関連していることが数多くの研究で示されている。また,近年,楽観性の高い人は,重要な目標に対しては時間と労力を集中させる一方で,重要ではない目標には適度に取り組むことが示されている(Geers et al., 2009;外山,2014)。 ところで,目標は記憶内で階層的な表象構造を形成していると考えられている(Vallacher & Wegner, 1987)。1つの上位目標は,いくつかの下位目標から構成されている(Shah & Kruglanski, 2003)が,1つの下位目標の達成によって,別の下位目標を追求しなくなることが示されている(Fishbach et al., 2006)。 本年度に行った研究では,上位目標として,大学生の本分である“学業達成”を取り挙げ,1つの下位目標(授業の出席)の達成が別の下位目標(試験勉強に励む)の追求に及ぼす影響が,楽観性の程度によって異なってくるのかどうかを検討した。研究1では,先行研究(Fishbach et al., 2006, study1)に準拠し,大学生を対象に場面想定法を用いて,研究2では,大学生を対象に日常の学業場面を用いて検討した。 本年度に行った研究の結果より,1つの下位目標の達成が別の下位目標の追求に及ぼす影響について,楽観性が調整変数として働いていることが示された。楽観性の高い人は,1つの下位目標が達成された時と未達成の時とでは,別の下位目標の追求の強さが異なることが明らかとなった。一方で,楽観性の低い人にはそのような傾向は見られなかった。これらの結果より,楽観性の高い人は,文脈に応じて行動を首尾よく自己制御することが可能であることが,下位目標達成の観点からも確認できた。
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