研究課題/領域番号 |
16K04267
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
長田 瑞恵 十文字学園女子大学, 人間生活学部, 教授 (80348325)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自称詞の獲得 / 社会的場面における使い分け / 自己概念の発達 / 役割取得の認識 / 心的用語 |
研究実績の概要 |
標準語圏,関西方言圏,東北方言圏の3つの地域の幼稚園児(年少・年中・年長クラス)と,小学1年生,小学4年生,中学1年生について,自分のことをどう呼ぶかを社会的場面における相互作用の相手別に尋ねる質問紙を配布した。加えて,家庭で自分のことを普段どう呼ばれているか,他の幼児や大人が自分のことを様々な呼び方で呼ぶ例を挙げてそれについてどう考えるかを尋ねた。なお,自分で回答することが難しい幼稚園児と小学1年生については,保護者に回答を求めた。小学1年生,4年生,中学1年生のデータについては現在分析中である。 分析が終了した幼稚園児について主な結果を述べる。第1に,標準語圏,東北方言圏では年少,年中クラスでは「ぼく」「わたし」などの一般的自称詞を使う子どもが少なかったのが,年長クラスになると一気に一般的自称詞を使う子どもが増加した。対照的に関西方言圏では年長クラスになっても,他地域で見られたような一般的自称詞を使う子どもの顕著な増加は見られなかった。第2に,愛称なども含めた自分の呼称を相互作用相手によって使い分けるか否かについては,標準語圏では目立った発達差が見られなかったのに対し,東北方言圏と関西方言圏では発達と共に使い分けをする子どもの増加が見られた。第3に,最もよく使用する自分の呼称としては発達と共に一般的自称詞の使用が増加していき,その傾向には地域差は示されなかった。第4に,最もよく使用する自分の呼称には性差があり,いずれの地区でも男児の方が早くから一般的自称詞を最もよく使用することが示された。 以上の結果から,自称詞の獲得や発達過程には,先行研究から示されていたような性差に加え,地域差も存在することが示された。今後,小学生や中学生のデータの分析を進め,自称詞の獲得と発達の多様性や,29年度の研究である自己概念の発達との関連について,より詳細に検討する必要があると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幼児期から小学生,中学生までについて,3つの異なる地域での自称詞の獲得状況や使い分けの状況についてデータを得ることが出来た点で,ほぼ計画通りに研究は進展していると言える。 評価を「おおむね順調」とした理由は2点ある。まず,データの量が多いために,現時点では小学生,中学生の分析が中途になってしまっている点である。しかしこの点については近日中に分析が終了する予定であり,大きな問題点とは考えていない。2つ目の理由は,高校生と大学生のデータを収集できなかったことである。高校生については,研究協力校を広く探したにも拘わらず,行事や授業スケジュールを理由に研究協力校が1校も見つからず,データ収集をあきらめざるを得なかった。大学生に関しては,幼稚園から中学校までの子どものデータ収集に時間がかかり,データ収集することが出来なかった。 そのため,高校生と大学生に関しては,29年度において出来る限りデータ収集に努め,28年度分のデータと合わせて,自称詞の獲得と発達について連続性を持った分析を行うようにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は申請書に記載した研究計画のとおりに平成29年度は研究2として,幼児期から青年期までの自称詞の獲得状況と役割取得,使い分けの適切さの発達的変化の実態―横断的・縦断的検討を行う。具体的には,自称詞の獲得・使い分けと,様々な場面における役割取得との関連について,より詳細に検討を行うことで,自己概念の発達との関連を検討する。加えて,第1年度の研究1と同内容の質問紙を同一対象者に実施することで,自称詞獲得・使い分けの発達的変化を縦断的に検討する。被験者は研究1と同一の対象を予定している。材料は質問紙を用い,様々な場面を設定して,それぞれで最もよく使用する自称詞を記載してもらう。幼児については本人の回答が難しいため,保護者を対象とする。各場面でその自称詞が適切だと判断した理由を尋ねる。幼児については自称詞選択の理由は可能な限り行う。加えて,自己概念の発達の指標として役割取得についての理解や認識を問う質問を加え,自称詞の使用状況との関連を検討する。 そして,平成30年度は研究3として,幼児期から青年期までの自称詞の獲得状況と,使い分けの適切さの発達的変化の実態の横断的・縦断的検討を役割取得・心的用語の使用との関連から検討する。具体的には,自称詞の獲得・使い分けと,自己概念の発達として役割取得の程度,心の理解の発達として心的用語の産出・理解との関係を詳細に検討する。加えて,第1年度の研究1と同内容の質問紙を同一対象者に再度実施することで,自称詞獲得・使い分けの発達的変化を主に縦断的に検討する。被験者は研究1・2と同一の対象を予定している。質問紙を用い様々な場面を設定して,それぞれで最もよく使用する自称詞を記載してもらう。さらに,自分や親しい人物について記述してもらい,その中で使用される心的用語の数や種類を分析するほか,語られる内容からどのような自己概念や役割取得状況との関連を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は,高校生と大学生からのデータ収集を行うことが出来なかったためである。そのために,質問紙の作成に必要な文房具や紙類の経費,質問紙作成やデータ整理のためのアルバイト雇用のための人件費,質問紙の送付と回収に必要な郵送費用などが残ってしまった。また,データ収集に必要と考えていた旅費も,同じ理由で不要となってしまったために,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度に収集予定であった高校生と大学生からのデータを得るために,研究協力校を探すことに努め,次年度使用額として生じた金額を使用して,データ収集及びデータ分析を進める計画である。具体的には依頼を出す高校と大学の範囲を広げ,できる限り多くの協力校を得た上で,必要な質問紙の作成,送付と回収,データ整理を行う計画である。
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