研究課題/領域番号 |
16K04272
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
宮本 聡介 明治学院大学, 心理学部, 教授 (60292504)
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研究分担者 |
太幡 直也 愛知学院大学, 総合政策学部, 准教授 (00553786)
児玉 さやか (菅さやか) 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (30584403)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 説明バイアス / 確証バイアス / 実在性認知 / 説明行為 |
研究実績の概要 |
説明バイアスとは、説明行為が説明対象に対する説明者自身の認知を歪める現象である。大統領選挙の勝利者の予想(Carroll, 1978)、テスト成績の予想(Campbell & Fairey, 1985)、実在しない心理用語の意味の予想(宮本・太幡・菅, 2015)、社会的トラブルの原因の予想(宮本, 2016)などで説明バイアスが生じることが確認されている。説明バイアスは歪んだ認知であることから、文脈によっては説明バイアスが生じないことが望ましいこともある。例えば会計監査場面でも説明バイアスが生じることが知られているが(Koonce, 1992)、バイアスに気づかないと、組織レベルの不正など、真の原因を突き止められなくなる可能性がある。本研究の目的は、この説明バイアス現象を引き続き実験的に検証すると同時に、説明バイアスの抑制メカニズムを明らかにすることである。 2018年度は事件報道帰属実験と新規商品(立方体のサッカーボール・穴の空いた傘)の利用方法説明実験を行った。いずれの実験においても、説明バイアスが確認され、説明バイアスの影響の強さが実証された。一方、新規商品の利用方法説明実験では、実験後の内省報告から、実験目的への気付きがあった実験参加者、実験目的への気付きがなかった実験参加者にわけ、説明の影響を再分析したところ、実験目的への気付きがあった実験参加者のほうが、説明バイアスの影響が大きいことが確認された。各種の認知バイアスは、実験目的や実験操作への気付きがあると消失することが一般には知られているが、本研究においては、気付きがバイアスを増長することが示されたことになる。これは、当初の予想にはない、新発見である。現在、この結果をどのように解釈することができるか検討を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
先述の通り、本研究の目的は、説明バイアス現象を引き続き実験的に検証すると同時に、説明バイアス抑制のメカニズムを明らかにすることである。 2016~18年度にかけていくつかの実験を実施し、説明バイアス現象を再現することには成功している。したがって、説明バイアスはある程度頑健な心理現象であると言える。一方、もう1つの目的である、説明バイアス抑制のメカニズムについては、まだ十分な検討がなされないでいる。原因は2点ある。 第1に、本研究の研究責任者である宮本が2016~17年度にかけて本務校で学科主任を務めたため、この2年間、業務に忙殺された。そのために、研究に十分な時間を割く事ができず、十分な実証研究を行うことができなかった。(なお、学科主任の打診があったのは、本研究プロジェクトの申請年時期(2015年11月)よりもあとであった。) 第2に、「研究実績の概要」でも述べたが、実験目的への気付きによって、かえって説明バイアスが増幅されるという、当初は予想していなかった現象が見出された。大変興味深い現象であるが、多くのバイアス研究では、実験参加者が実験操作に気づくと、バイアスが消失する"対比"効果が知られている。また、本研究の理論的検討の中では、説明行為の意図に参加者が気づくと、そのことがバイアス抑制につながる有力な要因となるのではないかと予想していた。しかし本研究では、実験操作への気付きによって、対比効果ではなくむしろバイアスを増長する"同化"効果が見出されたことから、当初の研究計画を練り直す必要に迫られている。 本来であれば、2018年度で本研究プロジェクトは完結するはずであったが、上記の2つの理由によって、研究全体の進捗状況に遅れが生じている。またプロジェクト予算に残額が生じていたこともあり、1年間研究機関を延長することにしたことを、ここに報告しておく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に残された課題は以下の3つであると考える。 1.本研究プロジェクトでは、説明バイアスという心理現象の実験的検証を続けてきた。2012年~2014年に実施した科研費研究プロジェクトから合わせると10以上の実験を実施してきた。これらの実験を通して、説明バイアス現象がある程度頑健な現象であることは確認されてきている。しかし、説明バイアスの発生メカニズムについてはまだ十分な理論的・実証的な検討が行われていない。本研究プロジェクトでは延長された1年の間に、ある程度この問題に触れ、メカニズムの解明にむけた理論的・実証的検討を試みたい。 2.実験操作への気付きが説明バイアスを増長させるという、2018年に実施した実験結果から得られた知見は、本研究プロジェクトにおける大きな課題であると考える。なぜ気づきが説明バイアスを増幅させるのか、そのメカニズムについて踏み込んだ議論ができるよう理論的な検討と、時間の許す限りの実証的検討を行いたいと考えている。なお、現段階では確かめたいことを論証する情報に積極的に目を向け、反証情報を無視してしまう”確証バイアス"現象をその説明要因として検討している。 3.気付きによる説明バイアスの増幅現象を観察したことで、本研究の大きな目的の1つである説明バイアス抑制のメカニズム解明の進捗が思わしくない。説明バイアスがある程度頑健な現象であること、様々な社会的影響を持っていることが予想されることなどから、その効果的な抑制がが求められる。本プロジェクトを延長した本年1年の間に、可能な限りの理論的・実証的研究を進めてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者である宮本の本務校での役職業務遂行および実験結果に思わぬ新発見がったことから、研究の進捗状況に遅れが生じていることは先述したとおりである。現在、約50万円の残額があるが、以下のような経費に支出を予定している。 本年度実施予定の実験データの整理等に必要等されるアルバイト経費。2019年度第学会等での報告のための旅費(9月に開催予定の日本心理学会においてシンポジウムの指定討論者として本プロジェクトを紹介予定である)。本研究プロジェクトに関わるテーマについて、有識者と情報を共有し、アドバイス等を受けるための旅費。年経過により型の古くなった用品・消耗品等の追加購入(研究会でのプレゼンテーション用タブレット、PDF作成用ソフトウエア他)。その他、調査実験に必要とされる消耗品。
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