研究課題/領域番号 |
16K04274
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
諸井 克英 同志社女子大学, 生活科学部, 教授 (80182286)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 変身 / コミック / 性格特性 |
研究実績の概要 |
当該年度では,(1)コミックを中心とした作品分析,(2)女子大学生を対象としてコミックへの接触傾向と個人的傾性としての性格特性との関連を計量的に探った。 (1)については『逢魔ヶ刻動物園』という作品を中心にコミックが描く物語の現実との相関性を考察した。堀越耕平による『逢魔ヶ刻動物園』('10-'11年)は,「動物園」という場固有の「神秘性」を巧みに利用した変身を軸に据え,『週刊少年ジャンプ』誌の「友情・努力・勝利」の3要素を具現化した。都留(2015)による「リアリティ」概念からも,読者を「異世界」に連れ出し,「世界観を共有させる」ことに成功していると判断できよう。「動物園」がもつある種の「神秘性」を基盤としているがゆえに,『逢魔ヶ刻動物園』の短期連載は,いわば娯楽施設の所謂多様化の中での「動物園」の衰退(古性・諸井, 2017)と相関しているかもしれない。「動物園」施設への来訪の減少は,都留(2015)が重視する「共通項」をもたらさなくなるからである。 (2)では,オリコンによる'15年度売り上げ上位200のコミック作品を女子大学生に呈示し,過去1年間での接触(購入,download)傾向をチェックさせた。同時に回答者の性格特性(Big Five)も測定した。多変量解析(クラスター分析,主成分分析)に基づきコミックへの接触傾向の3次元性を得た。また,性格特性評定に関する因子分析(最尤法,プロマックス回転)では仮定通り明確な5因子が抽出された。これらの分析結果に基づき,コミックへの接触傾向3側面と性格特性5側面との関連を検討したが(相関分析),関係は全般的に希薄であった。 (1)については本学紀要に既に投稿誌印刷中であり,(2)についても投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コミックを中心とした作品分析については,「変身」概念の社会心理学意義を明確化するという点で,①膨大な作品群の存在,②「変身」に関する歴史的考察の存在もあり,やや全体的に整理できていない点を自覚できる。しかし,投稿印刷中での論文として結実した成果を前提にすると,動物園という現実空間と虚構空間の両側面を併せもつ題材を基軸にしたことが有益であったといえよう。 また,コミックへの接触の基底にある心理学的機制の実証的解明については,性格特性の影響にこだわりすぎ,もっと幅広く個人的傾性を測定すべきであった。例えば,帰属複雑性や批判的思考など認知的処理に深く関わる個人的傾性がどのようなコミックに接触するかを規定している可能性もある。 以上のことから(1)や(2)についておおむね目的には近づいているが,不十分な点も残されたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では,コミックを中心とした作品分析をさらに深化させた。その際,「変身」と「時間移動」という概念を軸にして,作品群を整理し直す。さらに,「変身」に関する歴史的考察で提起されている種々の観点をコミック分析に適用しながら,コミック分析の普遍化を図りたい。さらに,「変身」や「時間移動」概念を軸にすえた映画作品の意義も明らかにする。 また,コミックへの接触の基底にある心理的機制の解明についても,測定すべき個人的傾性概念をもう一度概観しながら,計量的研究を再度試みる。また,コミック自体の消費動向に関するデータの分析も試み,日常におけるコミック接触の基盤動向も把握するよていである。 以上のことに取り組みがなら,コミックを中心とした作品分析やコミックへの接触の基底にある心理的機制の解明に関して3年間全体での成果確認も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
①予定していた文献等を購入できなかった,②購入しなかった消耗品等があり,全体として前年度分に次年度への繰り越しが生じた。 ①については古書を探しても入手できない文献があった。また,②については入手予定であった統計ソフトを他予算で購入可能となり,本予算では購入しなかった。 今年度は,これらを併せて,作品分析に伴う文献等の系統的購入や計量的研究の実施により必要となる消耗品等をより計画的に予算を執行する。
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