研究実績の概要 |
今年度の取り組みとしては,次の3点を中心に行った。①ここまでの成果を公刊する,②「作品分析」や「質問紙調査」のために必要と判断した資料(コミック,映像作品,サブカルチャーに関する単行本)をさらに収集する,③これらを踏まえさらなる作業の可能性を同定する。①では,2篇の論文と単行本1点を公刊できた。とりわけ,2篇の論文の到達点は,次の通りである。作品分析により,コミックにとって作品が虚構世界を巧みに構成しているだけでなく,読者の現実世界との間の力動的相互関係性が重要であることが分かった。このことは,質問紙調査において「異界・現実界融合ストーリー」が基本的性格の一端と関連していたことと対応していた。②については,関連資料をさらに収集・整理した結果,次のことが明らかになった。今後は,変身や異界の軸についてさらに多角的に考察すべきである。昔話で描かれる動物と人間の間の変身関係における文化差が存在するが(中村,2006),その他,わが国における御蔭参りなどの歴史文化現象(荻野, 1997)や,西洋社会におけるゾンビの変身 (都留, 2014)など様々な変身のかたちがある。これらの社会心理学的な意味を系統的に位置づけるべきであろう。また,質問紙調査においても「異界・現実界融合ストーリー」が基本的性格の一端と関連していたことと対応していたことから,「作品分析」作業と「質問紙調査」作業の結節点が浮き彫りになった。③については,①や②を前提に,変身や異界の軸を中心として整理・検討作業に取り組んでいる。つまり,この3年間で収集したコミックや映像作品などの内容を含めた整理作業を行っている。さらに,性格概念を中心として,これらの作品を受容する心理学的機制を明らかにするために実証的研究をさらに計画中である。
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