最終年度には、直前に喚起したフレームによって、記述的規範認知と行動頻度の関連が異なるかを検討した。具体的には、エアコンの温度設定を対象とし、節約を意識させるフレームと環境を意識させるフレームとで、温度設定行動と関連する記述的規範が異なるかを検討した。調査の結果、節約フレームでは節約・環境に関する記述的規範はいずれも温度設定と関連していた一方、環境フレームでは環境関連の記述的規範の効果のみが見られた。このことから、仮説は部分的に支持されたと言える。
研究期間全体では、記述的規範の効果が生じる条件やメカニズムを整理した。特に、記述的規範と記述的規範認知の乖離を生じさせる要因について検討を行った。その中でも記述的規範の観察可能性を中心に検討を行った。規範的行為の観察可能性とは、当該の行為の有無が周囲から観察しやすい行為であるかという問題である。観察可能性の高い行為は、周囲からその行為の頻度を把握しやすいため、記述的規範認知は実際の記述的規範(他者の行為頻度)から乖離する程度は低いと考えられる。一方、観察可能性の低い行為は、部分的な手がかりから周囲の他者の行動頻度を推測することになるため、記述的規範認知は実際の記述的規範から乖離しやすいと考えられる。調査では、行為ごとの観察可能性を遵守と違反に分けて測定するとともに、規範の認知度、規範の必要性認知を関連変数として測定した。基礎的な分析の結果、記述的規範認知と記述的規範の乖離度との相関は、(1)遵守行為の観察可能性のみ、(2)違反行為の観察可能性のみ、(3)遵守・違反の観察可能性双方、と相関するケースが見られた。
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