研究課題/領域番号 |
16K04281
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研究機関 | 日本経済大学 |
研究代表者 |
古川 久敬 日本経済大学, 経営学部(渋谷キャンパス), 教授 (30190143)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 仕事イノベーション / 創造革新 / 連携 / 壁と溝 / 共に見るもの / 促進条件 / 抑制条件 |
研究実績の概要 |
●研究目的は、第1に、今日の組織状況も考慮し、本研究は、部署(集団)間の「連携」を基にした創造革新の効果的な「履行」にとっての抑制条件と促進条件を明らかにする。第2に、「抑制条件」としては、不可避の部署間の「壁」とそれに付随する不一致や葛藤認知などがあり、他方、「促進条件」としては、関係者によって“共同一体”を基調として生み出される「共に見るもの」(相互に実現を目指す価値や具体的課題など)の設定があることを、従来の創造性研究と申請者の研究を発展させ、また社会心理学における伝統的な「集団間関係」研究(Pettigrew & Tropp, 2006)とも関連づけて理論的、実証的に検討し、提言を行う。 ●平成29年度に行ったことは以下の3つである。(1)あらためて、連携を基にした創造的アイディアの「履行」段階にかかわる先行研究、および創造革新の抑制条件と促進条件に関連する要因について検討している先行研究の整理と構造化を進めた。また、促進要因と予測される「共に見るもの」の設定と関連して、集団間関係に関するPettigrew & Tropp(2006)のレビュー論文などを基礎とした理論的整理を行っている。 (2)本調査の設計と実施に向けて、組織において連携に取り組んでいる個人を対象とする聞き取り調査を実施した。また、研修会等でのヒアリングの集計を通して、“新規の課題に取り組む必要性”が増加し、それにおいて成果を上げるためには、自職場や自部署完結では限界があり、“他組織や他部署との交流や連携を通して実現する機会と必要性”が格段に増大していることが明らかにされた。これらをもとに「仮説」の確認とともに、本調査実施に向けた準備を進めている。 (3)抑制条件としての部署間の「壁」は、互いの間で案件が具体化していく段階で顕在化することを示す分析結果など、研究成果の一部を論文としてまとめ、公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
●研究の進捗状況は、ほぼ予定通りに進行している。 1 当初の予想通り、従来の研究は、欧米を含めて、①アイディア生成段階に偏り、②内部完結型で、他との連携による履行(implementation)段階を扱ったものは少なく、本研究で行う整理は、申請者独自の着想に基づくものとなりそうである。 2 他との連携による創造革新の新たな視点と方法に関する研究として、Pettigrew & Tropp, 2006)によるレビュー論文の提供する示唆とともに、John Kania & Mark KramaerがStanford Social Innovation Review(2011)において発表した「Collective Impact」(対義語はIsolated Impact)や「共通アジェンダ」(Common Agenda)の概念も有用である。「壁」を越えて、連携、協働し、社会的課題を解決するアプローチとして、申請者が提案してきている「共に見るもの」とよく符合するものであり、検討の中に取り入れたい。 ●研究成果の一部については、部署間連携にかかわる「壁」や「溝」の顕在化や、連携や協働の促進条件(共に見るものの効果)および抑制条件(集団内のfault lineなどの壁や溝の抑制的影響)にかかわることを内容として論文にまとめ、発表している。
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今後の研究の推進方策 |
1 研究目的および研究計画に沿いながら、研究を進めていきたい。その際に、研究内容が、必要以上に“盛りだくさん”になることは避けなければならないが、集団間関係に関する研究蓄積について確実に参照すること、そして研究の進捗状況において述べた組織間関係としての新しい概念であるColletive Impactにかかわる研究動向にも関心を持ち、本研究との関連づけを試み、議論の説得性を高めていきたい。 2 それと併せて、創造革新的なアイディアが「生成」され、練り上げられ、正当化され、さらには「履行」されて実質的な成果を上げるに至る一連のプロセスを明瞭に意識した理論的な枠組みを明快に整理し、提示したい。従来の関連する個人特性や組織特性、イノベーション推進の研究は、その理論的枠組みのいずれかによく関連づくものと考えている。 3 連携を進めて成果を上げている組織(管理者)、逆に連携に難しさを感じている組織(管理者)からの聴き取り調査によっても、促進条件(共に見るものの設定)の効果と抑制条件(壁や溝の種類と構造)の影響について、明らかにし、整理をしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度において、ヨーロッパ心理学会議に出席し、研究成果の発表を予定していたが、やむなき事由により、見送らざるを得なかった。それに関係する予算などを、30年度に繰り越すことになった。 30年度に加算されることになる予算は、(1)第29回国際応用心理学会議への出席、成果発表、(2)調査打ち合わせや調査実施のための国内旅費、(3)研究協力や専門的知識提供、および図書購入を中心として、有効に活用したいと考えている。
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