研究実績の概要 |
第1に、部署レベルの創造革新研究における従来の議論は、内部完結型で、アイディアの生成段階に偏り、その実現や履行(implementation)段階が看過されていた。本研究では、今日の組織状況の変化を考慮し、面接および質問票調査を基に、(1)部署間の連携と協働の必要性の高まりを確認し、(2)どのような履行を阻む「壁」が意識されているかを検討した。 その概要は、(1)いずれの組織でも、競争力確保のために、新規アイディアの創出とともに、それの履行が一段と求められているが、容易ではないこと。(2)企業組織では、未経験課題の急増、必要知識や技術の高度化と外在、成果重視等により、また病院看護組織では、高齢化社会対応の「地域包括ケアシステム」の構築のために、組織内部はもちろん、外部組織や社会資源との効果的な連携と協働が、競争力獲得の決め手となること。そして、(3)創造革新の壁は、自己内の6つ(自分の性格、能力、経験の有無、現在の役割、専門性、失敗懸念)が、連携、協働の壁としては、部署間の考え方やとらえ方の違い、定着した伝統や慣行、過去の利害や貸借、人脈や関係性の有無の4つが意識されていた。 第2に、創造革新の効果的連携の抑制条件と促進条件を検討した。「抑制条件」としては、部署間の不可避の壁とそれに付随する不一致や葛藤認知などが影響し、「促進条件」としては、共同一体を基調として関係者によって生み出される「共に見るもの」(相互に実現を目指す価値や具体的課題等)の設定とそれの実践が効果を上げる。外圧や経営層の強力な指示も「共に見るもの」としての機能を持ち得る。 第3に、“創造革新的な事案ほど履行が難しい”という「創造革新性パラドックス」(古川,2015)の克服と、効果的な連携方略に関して、関連する広範な先行研究の知見とも関連づけて、オリジナルな理論的整理、将来の研究展望、そして成果の発表を行った。
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