研究実績の概要 |
「寄り添い」という用語は、援助者がクライアントに対して、一定の心理的なコミットメントを持って関わることを意味する言葉だが、その明確な定義はなされていない。しかし、援助者は極めて頻繁にこの用語を用いて自らの援助行動を表現し、またマスメディアにおいても「寄り添う」ことは好意的に報道されることが多い。本研究では、この「寄り添い」という言葉が援助者にとってどのような意味で使用されているのかを明らかにし、この用語の使用が援助者自身の心的な安定やクライアントとの間の信頼関係の構築にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的とした。 初年度の研究では、場面想定法を用いて、対人援助職の「寄り添い」が他者にどのようなイメージを与えるかを検討した。その結果, クライアントがネガティブな転帰を迎えた場合には, 支援の内容にかかわりなく, 対人援助職への印象が悪くなる一方, 「寄り添い」という用語を使用することで, 対人援助職への個人的親しみやすさが増すことが明らかとなった。 第二年度の研究では、援助職にとっての「寄り添い」を計量的に測定するための寄り添い尺度を作成することを目的とした。まず、介護職 (112名) に対し「あなたの考える寄り添った援助とは具体的にどのようなことを示しますか?」という質問項目に対する回答を自由記述にて収集し、記述された内容を参考に、複数の専門職によって分類して予備的な寄り添い尺度を作成した。この予備的な尺度のブラッシュアップのため、Web調査を2回 (1102名, 405名) 実施した。 これらの成果により、寄り添いという抽象的な概念について定量的にアプローチする手段を示すことができた。これらの知見は、研究目的である援助者-クライアント関係におけるフレームワークの構築へ寄与するものである。
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