本研究は,複数の書き手がお互いの書いた文章を読んでコメントをし合うピアレビュー方式の協同推敲の活動を行う際に,書き手とピアとが時間及び対話の空間を共有する距離にいること(物理的実在性)が推敲に与える影響を解明することを目的とした。 平成31/令和元年度は,ピアが他のクラスにいる状況と自分と同じクラス内にいる状況とを比較して,ピアの物理的実在性の影響について検討した。大学生69名を対象とし,ピアレビューを3セッション継続して行った。その結果,ピアが同じクラスにいない状況であっても,リライトした作文は量的・質的に向上しており,ピアレビュー活動の効果が確認された。時間空間を共有しない場合でも,継続した協同的な推敲活動と一貫した筆名がピアの心理的実在性を担保するものとしてある程度の効果をもっていたと推察される。ただし,作文の量および切磋琢磨し合う仲間としてのピアの認知の結果は異なっており,物理的実在性の有無によりピアの心理的実在性が影響を受けることも示されたことから,これらの点において,ピアの心理的実在性が物理的実在性と等価ではないことが示唆された。 上記を含め,研究期間全体を通じての成果としては,1) ピアと物理的な時間と対話の空間を共有することで,リアルな読み手からアクチュアルなコメントを得る実感がもてる,2) 協同的な推敲活動の継続が書き手の思考態度(mindset)の形成および体系化に寄与する,3) 時間空間を共有しない(物理的実在性がない)場合でも,継続した協同的な推敲活動と一貫した筆名がピアの実在性を担保するものとして効果をもつ,4) 意欲などの点においてピアの物理的実在性と心理的実在性は完全に等価とは言えない,5) 読みにおける嗜好性と産出された作文との関連が認められた,である。
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