本年度が研究課題の最終年度であるため、これまで行ってきた半側視野呈示の情動処理課題の男女比をバランス良く配分し、一連のデータ収集を終結する必要があった。そこで、最終的に定型発達内の健常大学生(男性13名、女性12名)を対象として実験を実施した。課題遂行時の課題成績および事象関連電位(event-related potential: ERP)を計測し、実行機能の大脳半球機能差およびその機能差が情動処理に及ぼす影響を検討した。N170の潜時と振幅を指標として、情動価を伴った顔刺激の右半球優位の処理過程を、性差と障害特性から明らかにすることを目的としている。本年度はERPデータの追加収集に尽力したが、現時点のERP解析からは、顔処理における右半球優位はN170の潜時および振幅から確認されるものの、障害特性(衝動性傾向および自閉性傾向)の影響は確認されなかった。前年度より性差のみに焦点を絞った解析に方針転換をしたが、未だに性差による優位性への影響ははっきりとわかってはいない。 研究期間全体を通じて、実行機能の個人差を性差から捉え、定型発達と非定型発達を隔てうる分水嶺を探るために、特に実行機能の情動面に着目したERP研究を中心に展開してきた。現在も解析は継続中であるが、最終的な解析終了までにはしばらく時間を要することが予想される。これまでの結果から、実行機能における障害特性の脳機能における詳細な解明には、単純な性差による影響だけではなく、攻撃性やリスク志向の高さなどの認知行動特性に影響を及ぼすと考えられる胎児期のテストステロン曝露量(人差し指と薬指の長さの比率[2D:4D比率])なども考慮する必要性が指摘される。本研究課題の成果は、この性差と2D:4D比率の交互作用を始めとした様々な関連要因の追加を検討した上で、新たに進行中の研究課題に引き継いでいく予定である。
|