研究課題/領域番号 |
16K04293
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
大河原 美以 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (90293000)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トラウマ / 東日本大震災 / 母子関係 / 愛着 / 感情制御 |
研究実績の概要 |
2019年度3月までに収集した調査データから、次の論文を執筆した。 大河原美以・鈴木廣子・林もも子(2020)母子のトラウマ体験が子の感情制御の発達に及ぼす影響(3)-どのようにして感情制御の発達不全は生じるのか(横断研究)-,東京学芸大学紀要 総合教育科学系Ⅰ,第71集,89-102. 被災地における342名の幼児の母への質問紙調査(子の負情動表出制御態度質問紙・子育て中の負情動被承認経験質問紙・感情制御の発達不全評価尺度・東日本大震災被災評価質問紙)を通して、臨床仮説が実証された。すなわち、「子どもの負情動表出を承認しない傾向」が高い母ほど、子どもの「過覚醒行動」「解離様式による二面性行動」が高くなること、つまり、子どもの感情制御の発達不全に直接的な影響があることが示された。また、夫・実母・支援者からの支援が得られていなかった。 東日本大震災の「客観的」被災状況そのものは、感情制御の発達不全には関係していなかった。しかし、震災後1年以内に「主観的」に強い不安恐怖や住環境の困難を体験するということは、2年後の困難に通じていた。特に、2年後の社会状況悪化感は、母の子どもの負情動表出を承認しない傾向を強めることで、間接的に感情制御の発達不全に影響を与えていた。 以上および昨年度の研究結果から、臨床仮説が実証されたが、東日本大震災の影響については新たな仮説が生成された。特に被災2年後の社会状況悪化感は、母の身体解離を高め、乳児期には子の負情動表出を承認できない傾向を高めることで、子どもの感情制御の発達不全に影響を及ぼすのではないかという仮説が生成された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年3月で、すべての調査を終了し、最終の分析を残すだけになった。2017年~2020年3月まで、東日本大震災の被災地にある小児科医院の乳児検診で、質問紙調査を実施してきた。質問紙は乳児用調査用紙(負情動・身体感覚否定経験認識質問紙/SDQ-5(身体解離傾向尺度)/愛着システム不全評価尺度/泣き否定認識質問紙)と幼児用調査用紙(子育て中の負情動被承認経験質問紙/子の負情動表出制御態度質問紙/感情制御の発達不全評価尺度)と東日本大震災における被災体験を評価する質問紙(客観指標と主観指標)であった。乳幼児調査用紙は0歳児~2歳児の母親に、幼児用調査用紙は、3歳児~5歳児の母親に回答してもらった。総調査数は、837名である。 2018年度は、東日本大震災被災体験評価質問紙の信頼性と妥当性を検証して質問紙を作成し、その質問紙を用いて、乳児用調査用紙の分析(横断研究)を行った。2019年度は、幼児用調査用紙の分析(横断研究)を行なった。 ここまでの調査および分析は、予定どおり順調に実施されてきており、臨床仮説が実証されるとともに、東日本大震災という母子のトラウマ体験が、子の感情制御の発達にどのような影響をもたらしているのか、その仮説を生成することができた。 2020年度に予定している縦断研究により、この仮説の検証が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画段階では、研究Ⅰとして「震災時に妊娠中および乳児だった子どもの4歳時点での感情制御の発達を検証する」、研究Ⅱとして「母の震災体験がその後の子育てにおける愛着システム不全および子の感情制御の発達不全にどのように影響するのかを検証する」としていた。実際の分析においては、2018年度の分析で、研究Ⅱの前半の「母の震災体験が愛着システム不全に及ぼす影響」を明らかにした。 2019年度の分析では、幼児用調査用紙と東日本大震災被災体験評価質問紙による横断研究の分析を実施し、上記の研究Ⅰおよび、研究Ⅱの後半(感情制御の発達不全)を明らかにした。 2020年3月ですべての調査を終了し、2020年度は、乳児用調査用紙と幼児用調査用紙と東日本大震災被災体験評価質問紙による縦断研究による分析を実施する準備がととのった。この縦断研究により、幼児の感情制御の発達不全を、母の子育て態度のみならず、東日本大震災との関連で縦断的に分析することが可能になっている。また、これまでの研究を通して生成された仮説の検証を行なう予定である。それにより、乳幼児期の愛着システム不全が幼児期の感情制御困難に与える影響、および母のトラウマ体験が子育てに及ぼす影響についての考察を深める。 2020年度にここまでの本研究の成果を、世界乳幼児精神保健学会(WHAIM)で発表の予定であったが、新型コロナウィルス感染症のため大会が中止され不可能となった。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の残金は、11430円であり、おおむね、計画どおりの支出がなされたといえる。英文校閲のための費用が、当初の予定より安価ですんだことによる。
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