研究課題/領域番号 |
16K04296
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
進藤 聡彦 山梨大学, 総合研究部, 教授 (30211296)
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研究分担者 |
工藤 与志文 東北大学, 教育学研究科, 教授 (20231293)
西林 克彦 東北福祉大学, 教育学部, 教授 (70012581)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 知識の構造化 / ルール学習 / 変数間の関係 / 展開図 |
研究実績の概要 |
本年度は主に以下の3つの研究を行った。 研究1.知識の構造化について、あるルールを教授する際に従来のルールと事例を提示する方法では、非典型例を例外だと認識されることがあった。そこで、目標とすべきルールと同時に、そのルールと対比されるルールを教授することでルールへの確証度を高めることで、非典型例を当該のルールの事例と見なすことができるようになるのではないかという仮説の下に、介入実験を行った。結果は仮説を概ね支持するものとなった。 研究2.小学校の算数において、割合は児童の理解が困難な内容の1つである。一般的に割合の教授の際には、数直線を用いた教授が行われているが、数直線自体の理解が不十分な可能性がある。そこで、数直線が割合の理解に有効なものとなっているか実態調査を行ったところ、不十分なことが確認された。この結果を受けて、数直線自体を理解させることで割合の理解が促進するか、また数直線に代わるものとして、基準量、比較量、割合の関係が明示的な図をもちいることで割合の理解が促進するか、という2点を明らかにする目的で介入実験を行った。その結果、いずれにおいても促進効果が確認できた。 研究3.小学校2年生では、直方体などの立体とその展開図の関係に関する学習が行われている。そこでは、立体を一面ずつから構成されるものとして取り上げられてる。しかし、予備的調査によれば、既に部分的には多面によって構成されたものとして認識可能であることを示唆する結果が得られた。そこで、立体の各面が繋がった一般的な展開図を作成させたところ、それが可能な児童が少なくなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の3種の研究のうち、研究1のルール学習における非典型事例を例外例とみなす学習者の誤りを防ぐ方法としての、対比ルールの教授による知識の構造化に関する研究では、既にデータを収集し、現在学会発表の準備を終えたところである。 また、研究2の割合の理解の促進するための教授方略に関する研究では、学習者に数直線を十分に習得させて、それを用いて教授する方法と新たに開発されたボックス図と命名した図を用いる方法によって、割合の学習に関する介入実験を行った。これらは、いずれも学習者に基準量、比較量、割合の関係が適切に構造化されることをねらった方法であった。そして、いずれにおいても一定の教授効果が確認されたことから、児童にとって理解が困難な学習内容の教授法の改善に資するものと考えられる。また、得られた知見は、数学教育関係の学会誌に発表された。 さらに、研究3の小学2年生の立体と展開図の把握に関して、当該の児童は立体を一面ずつ捉えるのではなく、多面的に捉えることが可能であるという結果は、立体の構造についての児童の認知の実態についての新たな知見をもたらすものであると同時に、現行のカリキュラムについても再考を促すものである。この点で教育実践的な意義ももつと考えられる。この研究については、学会での発表がなされた。 以上のように、行った3つの研究のうち2つは学術雑誌への掲載、あるいは学会発表という形で公にできるまでに達したこと、また残る1つについても学会発表の準備を終えたことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
教科の学習では、学習者は「aならば(は)、bである」という命題形式で記述され得る言語教材を学ぶ。それらの言語教材は一般性をもちルールと呼びうるものであり、学習者が多様な問題解決に適用できるようになることが期待される。しかし、現実には学習者は、当該のルールを新たな問題解決に適用できないことがしばしば観察される。本研究課題は、教授されたルールの適用を促進する教授要因として、知識の構造化に着目するものである。 すなわち、知識の構造化には、「ルール+事例」、「ルール+その説明原理」、「ルール+事例+説明原理」などが考えられるが、その発展型としていくつかのものがあり得る。例えば、上記の研究1では「標的ルール+対比的ルール+事例」を取り上げたことになる。今後は、その他の発展型の教授についても、教授されたルールの適用にどのように促進的効果をもたらすのかを明らかにしていく予定である。 また、研究2の割合および研究3の複数面の構成体としての立体の問題は、ルール内の前件または後件に複数の変数が関わったものと見なせる。よって、当該の学習内容に関する不十分な理解は、これらの変数間の関係が適切に構造化されていない事態だと考えることも可能である。こうした問題についても今後、検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究課題について、研究分担者である工藤与志文東北大学教授と2017年3月に山梨大学で研究打ち合わせを行う予定であったが、日程が同氏の学務と重なったため、開催が困難になり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当該研究会の検討内容は、国外の学会での発表内容の検討であったが、当面の措置としてメールで概要の打ち合わせを行った。今後、2017年5月に詳細の検討を行う予定であり、その際の旅費に使用する予定である。
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