研究課題/領域番号 |
16K04296
|
研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
進藤 聡彦 放送大学, 教養学部, 教授 (30211296)
|
研究分担者 |
工藤 与志文 東北大学, 教育学研究科, 教授 (20231293)
西林 克彦 東北福祉大学, 教育学部, 教授 (70012581) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 知識の構造化 / 知識の適用 / ルール表象 / ルールと事例の関係 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の2つの研究を行うと共に、前年度に口頭発表した内容を論文にまとめた。 研究1.学校教育では法則や公式といったルール命題形式をもつ知識(以下、ルール)の教授が行われる。しかし、学習者が当該のルールを教授された場合でも、問題解決事態において限定的な事例にしか適用できないことがある。その原因について、学習者が「非典型的な事例」を誤ってルールの「例外」と判断してしまう可能性を指摘した。そして、教授要因の問題点として、このような「非典型と例外の混同」が起こるのは単一のルールのみを学習させようとしていることに起因していると考えられた。それを防ぐために、標的ルールとなる「AならばB」に加えて、「非Aならば非B」という対比的ルールを同時に教授し、複数のルールが構造化された知識になるようにすることの有効性が実験を通して検証された。その結果、一部の対象者には有効性が確認されたが、2つのルールの関連づけが弱い対象者には効果が認められなかった。 研究2.ルール表象を形成した学習者には2つのタイプ(タイプ1とタイプ2)があり,タイプ2の者がルールの適用に失敗することを明らかにした。すなわち、調査を通して、「AならばB」というルールにおいて、Aのカテゴリーの事例の未知、既知に拘わらず事例表象を形成できる者(タイプ1)と、既知の事例に関しては事例表象が可能であるが、未知の事例については事例表象ができない者(タイプ2)に分類できることが明らかになった。そして、両者を分けるのは、カテゴリーの熟知度(既知か未知か)に拘わらず、当該の「AならばB」というルールが教授されたときに、それが全称命題としてすべての事例に適用可能であるという意味が内包されていることを理解しているか否かであることを示した。本研究ではルールが内包するこの種の論理的な意味の把握のことを「ルールと事例の論理構造理解」と名づけた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
学習者は「AならばB」という形式をもつメール命題を学習しても、当該ルールを適用できるはずの問題解決に失敗することがある。従来その原因として、学習者のもつ誤概念が妨害作用をもつこと、ルール情報を利用せず事例に基づく帰納学習が生じてしまうこと、例外への懸念や事例範囲を自動的に割引くこと、教授内容からのルール表象の抽象化が不十分となることなどが指摘されてきた。また、不十分な抽象化に関わり、学習者がルール情報中の一般的な概念名辞を事例に係る修飾語としてイメージしてしまうことが明らかにされてきた。 研究1ではこうした先行研究とは異なる観点から、学習者がルールの例外事例と非典型事例を区別せず、非典型事例を例外と見なすことによって、ルール適用が阻害されることを指摘した。すなわち、非典型事例に対してでも、それを例外として位置づけることなく、論理的な推論によって適切な判断を可能にする教授ストラテジーとして対比ルールの導入を試みた。これによって「AならばB」という元命題を教授するだけでなく、前件が非Aの場合には、非Bとなるとするルールを同時に教授することにより、Aと非Aの違いがもたらすBと非Bの違いの蓋然性の認識を高めることが期待できる。実験の結果、その効果が一部検証された。この研究では仮説自体が構造化が図られるような知識の形成を目指してルール適用の促進を図ろうとする新奇性があるものであり、結果も仮説を支持する方向のものとなった。 研究2では教授内容からのルール表象の抽象化の原因の1つとして、等しく「AならばB」の「A」の事例を未知事例に適用できる者とできない者がおり、後者は広範な問題解決にルールを適用できないことを見出し、これまでのルール学習に新たな知見を加えるものとなった。 このように新規性のある2つの研究が行われ、一定の成果を得たことから、概ね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度はこれまでの上記研究1をさらに進展させるために、以下の2つの研究を行う予定である。 研究1ではいくつかの課題が残った。そのうちの1つは、2つのルール間の構造化が図られるためには、それらのルールが学習者の既有知識と結びつけられる必要性を示唆する結果が得られたことである。この結果を仮説化し、新たに実験を行う予定である。これまで既有知識と新規に教授されるルールを関連づける教授ストラテジーとしては、新規のルールの教授に先立ち、そのルールによって解決が図られるような問題を事前に課し、学習者自身の既有知識を顕在化させることが有効だとする研究が報告されている。これらの先行研究を参考に、既有知識との接続を図りながら知識の構造化を促進する教授ストラテジーを考案し、実験を通じて検証していく。課題の2つめは、研究1では一群を対象にした協同学習の形態を採ったため、サンプル数が限られたものになっていた。そこで、統制群を設け、サンプル数を増やした比較実験を行って効果の検証を行う。 知識の構造化にはいくつかのタイプがある。例えば、その1つとして研究1のようなルールとルールの構造化、またもっとも基礎的なルールと事例の構造化などがある。しかし、新たにルールと知識操作に関する知識との構造化も考えられる。これは外挿のように「AならばB」でAの値を想定外に変化させることでBの変化に着目しやすくさせる効果をもつことが期待できる。また、元命題としてのルールの論理変換も知識操作に関する知識である。ルールはこうした知識操作に関する知識と併せて教授することで、ルール自体の理解や問題解決の適用促進に有効な場合があると予想される。そして、その有効性が確認されれば、ルール学習に関する新たな知見を提出できることになる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品を予定より安価に購入することができたことにより、次年度使用額が発生した。平成30年度の物品費として使用予定である。
|