研究課題/領域番号 |
16K04299
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
弓削 洋子 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (80335827)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 指導行動 / 学級経営 / 多様性 / 児童-教師関係 / 小学校 |
研究実績の概要 |
本課題の目的は,多様な児童で構成された学級集団の経営方略として「あたたかい突き放し」の有効性の検討にある。本年度の実績は以下のとおりである。 第一に,昨年度実施した「学級経営パズル」実験のデータ入力と分析である。児童の多様性を操作できる仮想学級をカード化した「学級経営パズル」を使って,教員志望の大学生対象に集団討議形式の実験を実施したが,データが複雑なために入力方法の工夫をおこない,データ入力と基礎的な分析を完了した。現在も分析の途中である。 第二に,多様性次元を再検討するために,多様性の一つとして,教師に対する児童の関係性欲求を取り上げて某小学校の児童1~6年生対象の質問紙調査を実施した。質問紙の構成は,昨年度の予備調査をもとに作成した関係欲求尺度,担任教師の指導行動尺度,学校生活スキル尺度である。7月と12月の2回実施した。データ分析の結果を来年度の国内学会で発表する予定である。 第三に,上記の予備調査の分析結果を国内学会にて発表した。研究者や教育関係者との意見交換をもとに,教師に対する児童の関係性欲求の違いを組み込んだ「あたたかい突き放し」モデルを再検討する必要が生じた。加えて,「突き放し」の表現が問題であるとの指摘から,表現の言い換え(例えば「手放し」)が必要となった。 第四に,児童の学級特性による教師の指導行動変容に関する論文執筆である。学級児童の諸課題を遂行する能力と意欲の総体である資源の高さの違いによって,教師が指導行動をどのように調整するかについて,仮想場面法を用いた質問紙調査の結果を論文化した。資源が最も高い学級には「突き放し」が必要であるが「あたたかさ」は必要ないとの分析結果であった。結果をまとめたものを『学校教育学研究論集』に投稿して採択された。 最後に,質問紙による本調査の準備として,学級観察による事例調査とインタビューをおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進展した点としては,第一に,昨年度実施した,教師への児童の関係性欲求尺度に関する予備調査を受けて,児童の関係性欲求や学校生活スキルに関する全学年児童対象の本調査を実施できたこと,第二に,学級特性による教師の指導行動の調整に関する調査研究の成果を論文化できたことが挙げられる。 一方,やや遅れているのは,「学級経営パズル」実験の結果の分析である。基本的整理はできたがまだ分析途中である。そのために,「学級経営パズル」の結果をもとにした小学校児童および教師対象の質問紙調査が実施できていない。 理由は,第一に,学級の条件の要因の複雑さである。統計ソフトだけではなくエクセルなどを使った細かな分析をおこなっているためである。 第二に,現在,博士論文を執筆しているために,執筆や指導教員からの指導などに時間を割くことが多かったためである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画は,学級の多様性と「あたたかい突き放し」学級経営との関連をモデル化することにある。 第一に「学級経営パズル」実験のデータ分析結果をまとめて国内学会で発表または論文化する予定である。分析結果を考察して,学級児童のどのような多様性・一様性が,どのような学級経営を介して,協同かつ自律的学級形成につながるかを検討する。 第二に,児童の教師への関係性欲求に関する調査データを分析して,国内学会で発表することである。新型コロナウィルスによる休校のために,3学期のデータを取ることができなかったが,まず,学期進行に伴い,児童が教師に求める関係性欲求や学校生活スキルがどのように変わり,教師の指導行動がどのように変わるかを分析する。次に,学級の多様性について,関係性欲求とスキルの多様性・一様性に注目して学級をパターン化し分析してまとめていく。現時点で,新型コロナウィルスの影響で国内の学会開催が未定であるが,可能であれば発表する予定である。 第三に,学級の多様性を仮想場面によって操作した質問紙調査の実施である。当初は,小学校児童または教師を対象とした質問紙調査をさらに実施する予定であった。しかし,新型コロナウィルス感染拡大防止のために全国の小学校は4月から5月上旬または末日まで休校措置を取っており,再開後は教師と児童は多忙を極めるはずである。この事情に配慮し,当初の調査計画を変更して,仮想場面法を使った質問紙調査を教員養成系大学の学生や,教職大学院に通う現職院生対象に実施する計画を予定している。また,質問紙調査実施の際は,新型コロナウィルス感染防止に十分心がける。
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次年度使用額が生じた理由 |
「学級経営パズル」実験の分析が遅れたために,当該実験を基盤とした実際の小学校児童および教師対象の質問紙調査を今年度は1校にしか実施できなかった。次年度に,さらに調査対象校を増やして質問紙調査を実施し,データ入力と分析をおこなう計画に変更したためである。但し,「今後の研究の推進方策」で述べたように,新型コロナウィルス感染拡大のために,小学校児童および教師への3月以降の調査は難しくなった。そこで計画を変更し,今年度は教員養成系大学学生および教職大学院に通う現職院生に,多様性を操作した仮想学級について評定してもらう場面想定法の質問紙調査を実施する。この調査実施および調査データの入力と分析のために,費用の必要が生じた。
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