研究課題/領域番号 |
16K04299
|
研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
弓削 洋子 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (80335827)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 指導行動 / 学級経営 / 学級経営 / 児童-教師関係 / 小学校 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,多様な児童で構成された学級集団の経営方略として「あたたかい突き放し」の有効性の検討にある。本年度の実績は以下のとおりである。 第一に,学級の多様性について,場面想定法を用いた質問紙調査を実施した。当初は,小学校児童または教師を対象とした質問紙調査を実施予定であった。しかし,新型コロナウィルス感染拡大防止のために教師と児童は多忙を極めていた。この状況に配慮して,オンデマンドシステムを使用して,現職教師および教職志望者対象に質問紙を配布して調査を実施した。仮想学級として,高評価の児童のみで構成された同質学級,低評価の児童のみで構成された同質学級,高評価児童と低評価児童の双方で構成された多様学級の計3学級を設定した。各学級を説明した文章を調査対象者に読ませて,各学級に必要な学級経営と,学級経営後の各学級の変化の予想を質問項目にて評定させた。その結果,多様学級の学級経営として「あたたかい突き放し」が必要であり,落着きはないが自主的に協力し合う学級になると予想された。 第二に,上記の質問紙調査の結果の一部を日本発達心理学会第32回Web開催にて発表し,研究者と意見交換した。 第三に,学級の多様性の効果を説明する一要因として,教師に対する児童の関係欲求に関する調査データを分析して,学会発表をおこなった。2019年度に実施した質問紙調査の分析結果,教師から自律したい欲求が強い児童にとって,突き放しのような教師が児童を手放す指導行動が学習意欲を高める結果となった。この結果を,日本教育心理学会第62回総会(発表論文集掲載による開催)にて発表した。 第四に,小学校教師の指導行動研究を題目とした博士論文の執筆である。現在,先行研究のレビューと研究1の文献研究まで執筆を完了している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進展した点は,第一に,場面想定法を用いて,学級の多様性と教師の学級経営との関連を検討できた点である。新型コロナウィルス感染拡大を受けて,感染防止だけでなく,学校の一時休校などに伴う学校現場の窮状に鑑み,小学生および教師対象の調査は実施できなかった。その代わりに,実際の学級ではないが,仮想学級を文章で設定した場面想定法を用いて,質問紙調査が実施でき,かつ調査結果に関しても,納得いくものであった。第二に,調査結果を学会発表できた点である。Web開催ではあったが,研究者からいろいろな意見や指導が得られたため,今後の研究に生かすことができた。 一方,やや遅れている点は,多様な学級において,なぜ「あたたかい突き放し」が効果的であると教師および教職志望者が判断したかを説明する調査ができていない点と,学級を構成する児童が実際には多様であることを,教師が認知できる条件は何かの検討が未だの点である。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に,多様な学級において,なぜ「あたたかい突き放し」の学級経営が効果的であるかについて,検討できる質問紙調査やインタビュー調査を実施する予定である。現職教師や教職志望者を対象にした質問紙調査,およびオンラインでのインタビュー調査などを検討中である。質問紙調査に関しても,今年度実施した場面想定法を活用する。学級の多様性・同質性の条件を文章で操作して仮想学級を複数設定し,各学級に必要な学級経営の評定と,必要性の理由の評定をおこなってもらう予定である。また,実際の学校現場において多様な学級に関する学級経営の事例については,オンラインで小学校教師にインタビューして実践を把握する。 第二に,学級を構成する児童の多様性を教師が認知できる状況の検討である。現実の学級では,児童たちは個々の異なる性格特性や価値観,行動傾向や能力を持つ多様性が存在する。その一方で,児童らの多様性を認知できない教師がいたり,認知できない状況が発生したりする。そこで,学級児童の多様性認知の取り組みとして,学級コンサルテーションの導入を検討している。現在,中学校における教師同士の学級コンサルテーションを予定している。小学校への導入は諸事情で現時点では難しいが,まずは,中学校で取り組み,学級の生徒の多様性認知を促す可能性を検討する。 第三に,小学校教師の指導行動研究を題目とした博士論文の完成である。現在,先行研究のレビューと研究1の文献研究まで執筆が完了している。残りの研究2から研究6に必要な調査研究は全て完了して雑誌論文および大学紀要論文と掲載されている。これらの研究をまとめ,総合考察を執筆する作業を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染の影響で出張が中止になったことが大きな理由である。まず,日本国内および海外の学会がweb開催になり,学会参加の出張費を使用しなかった。また,調査協力承諾を得ていた学校への出張も中止となった。この状況は今後も続くと思われる。そこで,令和3年度の研究費使用計画として,第一に,オンラインでの学会発表参加や現職教師へのオンラインでのインタビュー調査に向けて,必要な設備の整備費として使用する。第二に,質問紙調査および学級コンサルテーションのデータ入力と分析のための人件費と分析ソフト購入費として使用する。
|