研究課題/領域番号 |
16K04301
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
小松 孝至 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (60324886)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 発達心理学 / 文化心理学 / 意味構成 / 自己 / 相互作用分析 / 弁証法 / 記号的媒介 / 社会・文化的アプローチ |
研究実績の概要 |
研究初年度である平成28年度には,今後の研究の基礎として,これまでの研究で得られた資料についての理論的考察を深め学会発表を行った。具体的には,幼児期の母子の会話のトランススクリプトの分析を出発点として,同一<>非同一(same <> non-same)の弁証法的ダイナミクスに関する理論的考察を行い,さらに,心理的発達過程に関する歴史的基礎となった理論枠組み(例:J. M. Baldwin, J. Piagetの理論等)にもそれが共有されていることを指摘した。また,小学校の課題として子どもが自らの経験を書く日記における意味構成の分析過程について考察を実施した(いずれも日本発達心理学会第27回大会で発表)。続けて,これら子どもの意味構成が,生活の中での移動と,そこで生じる"otherness"の感覚に結びつくことについて,理論的な考察を国際学会で発表した(31st International Congress of Psychology で発表)。 こうした考察および研究発表をふまえ,年度後半には様々な意味構築の基礎にあると考えられる,可視<>不可視(visible<> invisible)の対比に着目し,日常的な会話等の意味構築から,歴史的に形成され社会的に共有される宗教的な信念に至る幅広い意味構築において,この緊張関係が機能していることについて考察を深めた(一部を日本心理学会第28回大会で発表)。この結果は,次年度以降の研究の展開において重要な理論的立脚点になると考えられる。また,これと関連して,「ビジュアル・ナラティブ」の質的方法論をめぐって,これまで取り組んできた宗教的図像の検討をもとに考察し,日本質的心理学会第13回大会でのシンポジウムに話題提供を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
すでに述べたように,理論的考察については一定の進展がみられた。当初の予定では,平成28年度末(2017年2月末から3月初旬)に,継続的に助言を得ているJ. Valsiner教授(デンマーク・Aalborg大学)を訪問し,教授のセミナーで成果を発表したうえで,今後の研究の展開について助言を得ることとしていた。しかし,本年1月から3月まで,研究代表者の健康上の理由により訪問を延期せざるを得ない事態となった。新たな訪問は本年9月からを予定しており,研究に若干の遅れが生じていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施した考察をふまえ,日常的な会話や日記での記述を基礎としつつも「A<>non-A」と統合的に表現しうる,種々の意味構築の基礎となるいくつかの弁証法的対立関係を整理し理論的なまとめをはかる。 また,質問紙調査における意味構成過程について,考察を開始する。 これらについて,年度途中にValsiner教授からの助言を得て,理論的な修正と拡張を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
【現在までの進捗状況】において述べたように,平成28年度末に予定していた国外出張を中止せざるを得なかったため,出張旅費として予定した経費に残金が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の経費として請求した助成金とあわせて使用計画を再構成し,主に国内外の資料収集・学会発表旅費として使用する計画である。
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