研究課題/領域番号 |
16K04302
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
豊田 弘司 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (90217571)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 欲求階層構造 / 偶発記憶 / 自己選択効果 / 意図記憶 |
研究実績の概要 |
欲求の階層構造に対応する処理と記憶成績の関係を検討した。 実験1 看護学校の学生を参加者として,単語に対して生存欲求に対応する処理,親和欲求に対応する処理,及び統制条件として快-不快処理を行う条件を設定し,偶発自由再生率による比較を行った。方向づけ課題では,「生きるために必要ですか」(生存欲求),「人と親しくなるために必要ですか」(親和欲求)及び「どんな印象ですか」(快-不快)という質問に対して評定を求め,その後,偶発自由再生テストを実施した。その結果,生存処理と親和処理の間に差がなく,ともに快-不快処理よりも再生率が高かった。ただし,参加者の評定値が高かった単語について条件間の比較を行ったところ,生存処理が親和処理よりも再生率が高かった。この結果は,欲求の階層構造の基礎に該当する生存欲求の記憶に及ぼす有効性の高いことを示すものとして解釈された。 実験2 単語対に対して参加者が自分で単語を選択する場合と実験者から強制されれる場合では,前者が後者よりも記憶成績が良いことが知られている。この現象を自己選択効果と呼ぶが,この効果には,自己選択する際の規準が重要である。そこで,選択規準においても欲求の階層構造に対応する効果が得られるか否かを検討した。看護学校の学生を参加者として,単語対に対して「生きるためにより必要なのは?」(生存欲求規準),「自分とより関係するのは?」(自己準拠規準)という選択規準に対して単語の選択を求め,その後,偶発自由再生テストを実施した。そこ結果,生存欲求規準が自己準拠規準よりも自己選択効果の大きいことが明らかになった。 実験3 実験2と同じ材料を用いて,意図記憶手続きによる検討を行った。その結果,生存欲求規準と自己準拠規準の間に自己選択効果の差はなく,意図記憶成績の違いは見いだせなかった。実験3には,検索方略が反映されている可能性がうかがえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた実験1を予備実験も含め,実施できた。全体の再生率としては生存欲求処理と親和欲求処理の間に再生率の差はなかった。しかし,参加者の評定値に基づく詳細な分析の結果,予想した通り,生存欲求処理が親和欲求処理よりも再生率が高い結果が得られた。 同じような手続きを用いて,異なる欲求間の比較を実施しようとしたが,生存欲求処理の頑健さを確かめることが必要であると考えて,実験2及び3では自己選択効果に関する実験手続きを用いて検討することにした。偶発記憶手続きにおいては,自己準拠という強い符号化処理よりも生存欲求処理に対応する規準で選択した場合が効果があり,新たな発見として評価できる結果であった。しかし,意図記憶手続きを用いた場合には,生存欲求規準と自己準拠規準との間に差がなく,生存欲求規準の効果は偶発記憶に限定される結果となった。 このように,実験2と3のように,手続きによる違いによって,処理の有効性に違いが見られることがわかった。また,実験1のように,参加者の評定に基づく詳細な分析が必要な場合もあることが明らかになった。しかし,欲求規準と記憶の関係と解明に向けて,実験の方向性と手続きの課題も明確であり,問題はないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
生存欲求処理の有効性が他の手続きにおいても見いだせるか否かを確認する。まず,本年度は,分散効果の手続きを用いて,生存欲求処理と自己準拠処理の有効性の比較を行う。生存欲求処理が自己準拠処理よりも分散効果が大きければ,それは生存欲求処理が適応記憶(Adaptive memory)に基づいて機能していることを示すことになる。一方,自己準拠処理の方が分散効果が大きければ,符号化の豊富さによる効果が反映されていると考えられる。 また,申請の際に個人差に関する計画を考えていた。欲求の個人差は質問紙によって測定するつもりであるが,適切な測定尺度を確定できない状況である。しかし,親和欲求や達成動機に関しては個人差が反映されやすいので,予備調査を計画している。 さらに,生存欲求以外の欲求間の有効性の比較も必要であると考えている。それ故,例えば,実験手続きとして設定しやすい親和欲求と知識欲求(統制条件として快-不快条件を加える)の比較を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿のために,英文校閲の費用を見込んでいたが,英文執筆の時間を要し,英文校閲を依頼するのが遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の7月までに,英文校閲を受け,上記の額を使用する計画である。
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