2019年度は以下の二点の研究成果を上げることができた。第一は,対話活動の深まりを把握し,評価するツールの開発である。平成二十年の学習指導要領改訂の際,言語活動としての対話が学校現場に導入された。しかし導入はされたものの,対話が学習活動として生かされていない状況が,今日まで続いている。この原因は,対話の質を評価する指導と評価方法が未確立であるという現状にある。この現状を克服するため,本研究では,児童の対話の質を把握し,対話の指導と評価に活用するためのツールを開発した。このツールは以下の特徴をもつ。まず,授業で活用するためにワークシートという形式をもつ。このワークシートは,対話による思考の展開を導く内容になっている。したがって,授業の展開にしたがって児童の思考の深まりを対話を通して把握することができる。次にこのワークシートは,対話の展開に沿って児童の意見の変化の具体的な実相を把握できる。その結果,対話活動が意見の変容に及ぼす影響を把握できる。本研究では,このワークシートを,小学校低学年向けに開発した。低学年を対象とした必然性は次の点にある。すなわち,対話導入に相応しい学年を特定するためである。そのうえで高学年用のワークシートに向けた改善点を明確化するためである。 成果の第二点は,自問自答型発問の開発である。この開発は以下の意義をもつ。本研究では,児童が身に付ける道徳性とは,道徳的視点から問いかける力であると捉える。このような道徳的視点としての問いかけを自問自答型問いかけと呼んだ。児童は教師からの発問をとおして自問自答型問いかけを習得する。そしてこの問いかけを日常生活に持ち帰り,常に自分自身に問いかけることによって,道徳性が育まれる。本研究では,自問自答していくための問いかけを児童にもってもらうために,教師が道徳的視点をもった発問を作成する際に必要な原理原則を開発した。
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