研究課題/領域番号 |
16K04308
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
酒井 厚 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (70345693)
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研究分担者 |
前川 浩子 金沢学院大学, 文学部, 准教授 (10434474)
室橋 弘人 お茶の水女子大学, 人間発達教育科学研究所, 研究協力員 (20409585)
高橋 英児 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (40324173)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 協働性 / 仲間 / きょうだい / 縦断研究 / ソーシャル・キャピタル |
研究実績の概要 |
本研究は、わが国が抱える就学前後の移行期に学校での不適応を示す子どもの問題に対して、主な原因の1つと考えられる他者との協働性(協調性や共感、他者への信頼、利他的行動)の未発達さに注目し、その発達メカニズムを縦断的調査から検討するものである。 平成28年度は、対象児が幼児期から調査に継続参加している年長から小学2年生までの約210家庭(単胎児180家庭、双生児30家庭)に質問紙調査を実施し、対象児ときょうだいの他者への協働性(共感・協調性、他者への信頼、向社会的行動と問題行動)とその関連要因について測定した。関連要因としては、家庭、園、地域における各種の環境、気質やパーソナリティのほかに、子どもが能動的な行為者としてソーシャル・キャピタルを形成する様子について評価した。今回は、ソーシャル・キャピタルの構成要素の1つである社会参加に注目し、子どもによる地域住民とのコミュニケーションや行事への参加頻度と積極性が共感・協調性とどのように関連するかについて検討した。その結果、年長時点では、子どもの社会参加の頻度や積極性と共感・協調性(「遊びの中で自分の順番を待てる」など)の間に有意な関連は見られなかったが、小1時点では頻度の多さや積極性の高さが共感・協調性の高さと有意に関連していた。また、自己効力感(「お話が上手」など)についても同様な結果が得られ、子どもが能動的に社会に関わることが協働性や自己効力感といった社会情動的スキルの発達を促す可能性が示唆された。 また、今年度は年長児のいる家庭を対象に対象児が通う園での調査を依頼し25家庭から承諾を得た。担当教諭や保育士に郵送法で調査を実施し、園における対象児の協働性やその他の向社会的行動、園と保護者や地域との関係性について尋ねた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、就学前後の移行期における他者との協働性の発達メカニズムの解明と社会的適応との関連を調べるため、幼児期から調査に参加している家庭を対象に、年長時点から小学2年生までのパネル調査を実施している。平成28年度において、年長および小学1・ 2年生時点の調査に参加したのは合わせて約210家庭(単胎児180家庭、双生児30家庭)であり、幼児期から就学時点までの継続データが着実に蓄積されてきている。 今年度は、対象児が5歳時点までに行った調査データを用いて解析を行い、国内の学会で発表し、投稿論文としてまとめ投稿した。対象児の上にきょうだいがいる家庭を対象に、2歳から4歳までの縦断データを用いて母親の養育態度と共感・協調性の発達との関連を検討した結果、2歳や3歳における子どもの共感・協調性の低さが、次の時点での母親がきょうだいを同様に扱う傾向の低さを有意に予測することが示された。また、5歳時点の実験データを用いて、親子間の道徳にまつわる約束事の有無に関わる要因を検討したところ、親の感受性(子どもの心的帰属の読み取り)が低くかつ子どもの自己主張性が低いと約束事が結ばれにくいという結果が得られた。これらの結果は、子どもの社会情動的スキルの発達をめぐって、親の養育による影響が子どもの状態像を受けて変わることを示した点で重要であろう。さらに、5歳時点の仲間関係を扱った研究では、子どもの仲間ネットワークには多数で密度の濃いものや少数で付き合いの長い友だちで構成されるものなど個人差があることを示し、少数で付き合いの長い友だちで構成されたネットワークではグループの向社会性度の高さが子どもの共感協調性の高さに有意に関わることを見出した点も成果の1つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はパネル調査のため、平成29年度と30年度も同様の調査を実施する。対象は、昨年度までの調査に参加した対象児が小学1・2年生の約200家庭である。調査内容は、対象児ときょうだいの他者との協働性(共感・協調性、他者への信頼、利他的行動)の各変数と関連が予想される要因である。具体的には、対象児を取り巻く環境である家庭、園、地域に関する包括的な要因、子どもの個人的特性である気質やパーソナリティおよび対人スキル、ソーシャル・キャピタル形成における子どもの能動的な関わり(社会参加への積極性など)について測定する。 また、平成29年度からはインテンシブ・グループとして登録された家庭のうち、対象児が小学2年生になった親子に大学への訪問を依頼し、90分程度の面接と実験観察を実施する。面接では、子どもから普段の生活における仲間集団やきょうだいとの営みに関して情報を収集する。実験観察では、対象児を含めた複数の子どもたちでの集団活動状況を設定し、競争的あるいは協力的ゲームでの様子を観察し、集団の構成力や活動における主体性などについて評価する。 平成29年度は、対象児が就学前の段階で収集したデータも合わせて、子どもの他者との協働性の発達に関わる要因を縦断的に検討し、学会発表を重ね学術論文としてまとめていく。3年間のパネル調査でのケース数を保つためには、参加辞退者数を見越して協力者を募集しておく必要がある。また今年度には、公的機関や関連団体を通じて募集活動を行い、年長児のいる約100家庭に参加を依頼する。同時に、対象家庭および園の同意が得られた場合には、通園先の担当教師や保育士に郵送法で調査を行い園での他者との協働性に関する様子について尋ねる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年11月より、石川県の子育て支援サークルとつながりができ、本研究の研究協力者を募集することができる信頼関係の構築につながった。このため、平成29年度の5月から7月までの早い時期に、研究協力者のリクルート活動のための費用が必要になり、平成28年度の分担研究費を残し、平成29年度に使用できるよう、繰越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
石川県内の金沢市および加賀地区の子育て支援サークルや、子育て支援センターへのリクルートのための旅費として使用する。内訳は、金沢学院大学における自家用車による旅費の規定(20円/1km)により、金沢市内(大学から25km以内)に3回(1回あたり往復1000円 ×3)と加賀地区(大学から約50km)に2回(1回あたり往復2000円 ×2)で計7000円である。
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