本研究は,子育て期の女性における「自己と他者の調整」について,面接法と日誌法,および,質問紙法を組み合わせて検討することを目的とした。「自己と他者の調整」とは,ここで,「個としての独立性」と「重要な他者との関係性」という人間にとってともに重要な2つの側面のバランスを状況に応じて取ることと定義する。 本年度は主として分析の方法について検討を行った。最終的に31名の協力者のデータについて以下のデータを検討することにした。本研究で収集したデータとはすなわち,事前の質問紙調査(基本的属性,子どもの健康状態,夫婦関係,本人の心理的適応状態,家族内の情緒的雰囲気,家事育児分担,家族についての価値観),1回目の面接調査(現在までのライフキャリア,現在の生活と将来の希望,子に対する期待など),1回目のWebを利用した日誌法の調査(1週間毎日その日にあった出来事のうち自己と他者の葛藤が生じて調整が必要になったことを記載してもらった内容),2回目の面接調査(日誌に記載された内容の確認と,自己と他者の調整に関するリフレクション),そして,この日誌法と面接法を再度繰り返して実施し,3回目の面接調査では日誌内容の確認に加え,子育てや仕事についての考えを聴取した。最後に追跡調査(アイデンティティ,価値観,意味づけなど)に回答してもらった。 分析の結果,日常の葛藤は夫,子ども,家族間,仕事,その他の人間関係といった内容に分類できると判断され,これらの自己と他者の調整の生起頻度が,ライフスタイルや生活満足度,また,価値観などと関連することが示唆された。また,ライフキャリアの経路は現在仕事と両立や専業主婦などとして分類できるとしても,個人によって多様であることが示された。
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