本研究では日本、中国、台湾という漢字圏にある地域の児童・大学生を対象とし、円や三角形などの幾何学図形の一筆描き課題を実施して描き始めの位置や描く方向にみられる特徴を検討することを目的とした。2018年度では台湾の児童を対象に図形の一筆描き課題を実施し、データの収集をおこなった。調査に協力してくれたのは、台湾の小学1年生14名、小学2年生26名であった。このうち、分析の対象としたのは右利きの児童36名(小学1年生10名、小学2年生26名)であった。 円の描画課題では、描き始めの位置を時計の文字盤をもとにして12の点に分類した、描く方向は時計回りと反時計回りに分類した。三角形の描画課題では、描き始めの位置を三角形の各頂点に分類し、描く方向を時計回りと反時計回りに分類した。これらの反応の頻度を学年ごとに集計し、その発達的変化を検討した。 その結果、小学1年生では円の描き始めの位置には偏りはみられず、また描く方向にも特定の傾向はみられなかった。他方、小学2年生では円の描き始めの位置を11~12時にとる反応が多く(17名)、さらにその位置(11~12時)から描き始めると、半数は円を時計回りに描き、残りの半数は円を反時計回り描くことが明らかになった。この結果は、台湾の大学生を対象とした調査結果と一致していた。台湾の小学2年生の円の描線動作には、成人と同様の特徴がみられることが示された。つぎに、三角形の描画課題では小学1・2年生とも、上の頂点から反時計回りに描く傾向がみられた。こうした描線動作の特徴は、台湾の大学生の三角形の描画でも多くみられるものであった。 以上の結果をふまえ、今後、日本、中国、台湾での調査で収集したデータを分析し、漢字圏に特有の描線動作の特徴について研究成果をまとめていく予定である。
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