研究課題/領域番号 |
16K04313
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
伊藤 忠弘 学習院大学, 文学部, 教授 (90276759)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動機づけ / 目標 / 価値 / 手段 / 階層構造 / 面接調査 |
研究実績の概要 |
目標とその達成手段は階層構造のあり方を考慮することで,動機づけの性質を明らかにできるという前提の下,面接調査により,目標階層の個人差を測定,表現する方法について探索的に検討を行っている。 平成28年度に実施した面接調査のデータについて,目標の統合と葛藤に着目した詳細な分析を行った。手続きとして,10年先の自分の「目標」を10個,人生で大切にしていること,「価値」を5個記述させたカードを用いて,「価値」を充実・実現させるためにその達成が役に立つ「目標」を,5つの価値それぞれについて選択させ説明を求めることで,上位目標-手段関係の認知を測定する。また5つの価値について,対立している,両立が難しいと認知されている関係を直接尋ね説明をもとめることにより,上位目標間の葛藤関係について測定した。 価値の葛藤については,半数近くの協力者から収集され,その内容としては「人にやさしくする」と「自分に正直でいる」の葛藤のように人間関係や他者に対する態度と自己の葛藤のケースが典型的に報告された。また価値と目標の結合のパターンより,複終局性(1つの手段を媒介して2つの目標が結合している;一石二鳥の関係)のケースを確認すると,たとえば「人にやさしくする」と「自分に正直でいる」の「価値」対立では「今と同じくらいの友達付き合い」が挙げられていた。また特に「人間関係や他者に対する態度」と「自分に向けられた意識や態度」ないし「挑戦や自己成長」といった自己と他者に関連する価値が挙げられているケースを検討し,「縁を大切に」することと「新しいことにチャレンジ」することの複終局的な手段として「社会人として自分自身が必要とされる人物に」なること,「他人のために役立つこと」と「自分の心に正直になること」の手段として「後輩に慕われる,尊敬される」が挙げられるといった目標統合の具体的事例を収集することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属機関での役職就任に伴い,想定よりもその仕事が増加していることによる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度目標階層を視覚化する手段について先行研究に基づいて検討し,同じ領域の研究者からも有益な指摘を得ている。これは自己を形成する様々な状況や役割における自己概念間の関係性(葛藤と統合)に基づく「自己複雑性」の研究にヒントを得たものである。 今後は個別状況(役割)における自己概念とそれを表す形容詞の属性から自己複雑性を測定するという方法を「価値」と「手段」の関係性に援用する手立てを考えることで,多様な(一見対立するような)価値を保持しながらそれらが手段によって結びついているといった目標の統合された状況(自己複雑性でいえば複雑性の高い状況)を視覚化し,数量化するための方策について検討し,実際にその有効性を確認すべきデータを収集する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関での研究費の使用の仕方について誤解があり,前年度の支出より戻入金が発生したことと,面接調査をうまく実施することができなかったため,その謝礼として充てる予定の「謝金」の支出がなかったこと,さらに分析等に使用するためのパソコンの購入に充てる予定であった「物品費」の支出が間にわなかったことによる。このような理由から「次年度使用額」として発生した研究費については,上記の目的に従って使用する見込みである。
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