自己志向的動機(利己的目標)と他者志向的動機(利他的目標)の統合について、その測定方法、動機づけにもたらす適応的な影響、統合に至るプロセスの検討を目的としてきた。最終年度は、当初の研究計画を一部変更し、3つの研究を行った。 (1)階層的目標構造の理論に基づく、動機(目標)間の葛藤・統合を記述し測定する方法の探索的検討を続けた。2016年度は、上位目標として10年先の「目標」および人生における「価値」を面接法により収集したが、内容が抽象性-具体性のレベルで多様性が大きく、個人間の比較が困難であった。2019度は、同じく面接法により上位目標として「理想自己」を形容詞リストから選択させ、グループ化して名前をつける方法を採用した。現在進行中の日常的な活動とこの上位目標の関連を量的に評定させて階層的目標構造を視覚化し、目標間の葛藤・統合関係を研究協力者に解釈させた。 (2)従来の質問紙(自己・他者志向的動機への態度尺度)の回答のクラスター分析により、達成動機づけにおける自己志向的動機と他者志向的動機の葛藤・統合の典型的なタイプを抽出する方法は、サンプルによって安定したクラスターが形成されないため、結果の解釈に曖昧さがあった(そのため(1)のような個性記述的方法の検討が必要とされた)。そこで2019年度および2017年度に収集した上記尺度データについて、クラスター数の異なるモデル間を比較する潜在カテゴリー分析を行った。その結果、2つの動機のいずれかが優勢、両者が葛藤、統合といったクラスターの想定の妥当性が支持された。 (3)自己志向的動機と他者志向的動機は、発達に伴い両者が統合される方向で変化するという仮説と、2つの動機が人生の重要な局面で葛藤と統合を繰り返すという仮説が考えられうる。2019年度は質問紙尺度の社会人データを収集し、大学生による結果と比較した。
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