本研究では,情動知能の客観的テストとして海外で最も用いられているMSCEITを基にし,日本で使用できる尺度を作成する。研究期間内に行うことは文化の違いを考慮して日本人向けの項目と測定方法を明らかにすること,及び,調査を行い尺度の信頼性と妥当性を統計的に確認することの2点である。MSCEITは,Mayer & Salovey(1997)の4ブランチモデルの枠組みに沿って作成されている。4ブランチとは①情動の知覚<Perceiving>,②情動の利用<Using>,③情動の理解<Understanding>,④情動の制御<Managing>である。 今年度は,4ブランチのうち④情動の制御を測定するための項目を作成した.96名の日本人の大学生を対象に自由記述による予備調査を実施して,日本人の学生が経験することの多い,対人葛藤場面を調査した.結果より,対人葛藤をよく経験する状況は課外活動,アルバイト,友人関係,授業(実験,グループワークなど),家族の順に多かった.また,相手の年代としては,同世代(同級生,同僚,友人),年上(先輩,社員,上司,教員)の順で多かった.これらの予備調査の結果をもとに,日本人の大学生がよく経験する7つの対人葛藤場面項目を作成した.各場面での学生の対応を363名の大学生に調査した.項目反応理論を用いて項目特性曲線を求め,各項目の識別力と困難度の値を参考に項目としての妥当性を検討した.結果より,7項目中5項目が④情動の制御を測定するためのテスト項目として採用された.
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