研究課題/領域番号 |
16K04319
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
福田 由紀 法政大学, 文学部, 教授 (90241190)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 朗読 / 深い理解 / 読み手の感情 / 読書行動 / 動機づけ / 眼球運動測定 / 近赤外分光法 / 物語理解 |
研究実績の概要 |
物語を深く理解することには,書かれていることの把握と登場人物の感情の理解が含まれる。深く理解することにより,読み手の感情状態は文章の持つ感情価に強く影響される。そして,読み手の感情状態は,次の文章を読む機会における動機づけを形成する。つまり,読んで楽しかったら,次も読もうとする。このように,深く理解することにより文章を読む態度も身につけることができる。物語理解をこのような読書行動の一つのサイクルでとらえることが本研究の特色である。申請者の先行研究(福田・楢原,2015)で,朗読による読み手の感情へのポジティブな効果が明らかとなり,朗読の2段階モデルが提案された。その第1段階で行われる黙読は,単なる黙読とは異なり,深く理解するプロセスであることを本研究で,行動指標と生理指標を用い,3つの実験によって実証する。同時に,深い理解がどのような動機づけを生むのかについての実験も行い,読書離れの危機に対して有用な提言を行うことが研究の目的である。 2016年度では行動指標を用い,第1段階で行われる黙読における深い理解プロセスを,単なる黙読した条件と比較した。具体的には実験1では理解得点を,実験2では眼球運動について検討した。 実験1の結果,テキストに書いてあったことを問う浅い理解の得点には条件差は無かった。一方,推測が要求される深い理解得点においては,朗読を予告された条件の方が,単なる黙読をした条件よりも得点が高かった。つまり,朗読を予告された場合,私たちはより深い理解を得るような黙読の仕方をしていることがわかった。 実験2に関しては,検証に十分な34名分のデータは取得済みである。今後,それらの注視点や注視時間,読み返しの数等を分析し,実験1の結果と併せて,朗読の第1段階では読み手はテキストを注意深く読んでいることを検証する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,3つの実験を通じて,朗読に先立つ黙読時に読み手は深く物語を理解することを実証し,さらにそれが動機づけにどのような影響を与えるかを1つの実験を行うことにより達成する。2016年度にすでに実験1と実験2を行い,実験1に関しては,国際学会や国内での学会において発表済みである。また,実験2も検証に十分であるデータをすでに取得済みである。さらに,NIRS:近赤外分光法による実験も5月下旬から行うことができるように準備は整っている。そのため,本研究は(2)おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は,2017年度前半には,深い理解についてNIRS:近赤外分光法による実験3を執行する予定である。その結果,朗読の第1段階のプロセスについて,行動指標に関する実験1と実験2,生理指標に関する実験3の結果が揃う見込みである。2017年度の後半には,これらを結果をまとめて,論文化する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として,統計解析ソフトを購入予定であったが,フリーのデータ解析ソフトで代用したため,2016年度の当初予算よりも使用した金額が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
NIRSを用いる実験3では,刺激提示やデータ解析において高度な知識とスキルが必要になる。そのための,プログラム作成や実験3に対応した分析プログラムの作成を,その知識とスキルのある研究者に依頼する予定である。そのための謝金に差額分を充てる予定である。
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