研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,朗読による読み手の感情や理解の深さ,読み方への影響について,行動指標や脳生理学的指標を用いた複数の実験の結果から,読書離れの危機に対して有用な提言をすることである。 2016・2017年度には,朗読予告有り条件の方が予告無し条件よりも,推測が要求される深い理解得点が高く(Fukuda, 2016a),読み手の気分は良くなることを示した(福田,2016b)。その理由の1つとして眼球運動に注目して実験を行った結果,予告有り条件の方が予告無し条件よりも,物語全体を通して,眼球運動の停留する回数が多く,停留時間も長く(福田,2017a),特に,物語のテーマに関連する文では顕著であり,参加者はこれらの情報を理解に利用している可能性が示唆された(福田,2017b)。 2018年度には,眼球運動実験の結果を詳細に検討し,朗読予告有り条件の参加者のみ注意深く一文を読んでいることが明らかとなった(福田,2018a)。また,近赤外分光法による実験の結果,物語の結末部において,朗読の方が黙読よりも,多重課題を行っている際に活性化する前頭極に有意な賦活が認められた(福田他,2018b)。さらに,予告有り条件と無し条件の黙読時の脳血流動態反応を測定した結果,予告有り条件時に快経験と関連のある眼窩前頭前皮質に有意な賦活が認められた(福田他,2018c)。これらの脳生理学的指標の結果は,音読条件に関する実験(2018年度実施)と比較され,2019年度に発表される予定である。また,朗読による動機づけへの影響に関する実験も同年に行い,その結果,主観的な動機づけが高まることが明らかとなり,2019年度に発表する予定である。 これらの一連の実験より,朗読という読み方が文章を深く理解させ,主観的に気分をよくするだけではなく,脳活動にも変化を与え,さらに次の読書行動を促進させる可能性が示された。
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