研究実績の概要 |
指示されない運動反応を抑えるための手続きの効果を確認し,そこに年代差がみられるかどうかを検討した。実験方法としては,刺激-反応適合性課題(stimulus-response compatibility task)を用いた。1.視覚刺激に誘導される運動は,反対側(誘導されない側)への試行を繰り返すことで,徐々に抑制できるようになるのか。この効果には年代差がみられるのかを検討した。2.場所弁別課題に加え,色弁別課題を負荷することで,視覚刺激に誘導される,衝動的な運動を抑えることができるか。この効果に年代差があるかを検討した。実験の結果,(1)視覚刺激に誘導される運動は,反対側(誘導されない側)への試行を繰り返すことで,徐々に抑制できるようになった。この効果には年代差がみられなかった。(2) 場所弁別課題に加え,色弁別課題を負荷することで,視覚刺激に誘導される,衝動的な運動を抑えることができた。ただし,この効果は若年成人に限定されたものとなった。この結果から,運動を抑える手続きの効果には,加齢の影響を受けやすいものと,そうでないものが存在することが推察された。この年代差の要因として,視覚経路(visual pathway)と前頭前野との関わりが推察された。2つの視覚経路からの情報は,前頭前野を介して統合される(Sakagami & Tsutsui, 1999)が,この前頭前野は加齢効果を受けやすい部位でもある(Cabeza, McIntosh, Tulving, Nyberg, & Grady, 1997)。場所弁別課題のみを繰り返すことで,運動抑制に結びついたのは’where pathway’経由の反応であり,この手続きに関しては,加齢効果はみられなかった。ところが,前頭前野を介した,’what pathway’経由の反応に関して,加齢の影響が顕著にみられたものと思われる。
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