研究課題/領域番号 |
16K04328
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
石王 敦子 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (80242999)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイリンガル / 言語発達 / 自伝的記憶 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本語バイリンガルの言語獲得に関する認知発達モデルを構築することが目的である。本年度は、バイリンガルの子供たちを対象とした研究を研究協力者とともに文献で検討し、言語心理学のテキストにまとめた。 その概要は以下の通りである。初めにバイリンガルの定義を確認したが、研究者によって定義の内容は多様であった。またその定義は、主として聞く・話すというコミュニケーション能力を主に考えられていることも示された。しかし、言語の健全な発達のためには読む・書くという能力も必要であり、バイリンガル研究で特にこの4つの能力に言及して検討している研究は少ないが、今後は4つの言語能力と第二言語の獲得を考えていくことが課題として挙げられた。第二言語習得に影響を与える要因としては、習得開始の時期、学習方法、学習者の環境などが挙げられた。習得開始の時期は臨界期の問題として扱われることも多いが、概して第一言語の獲得に臨界期はあるとされていることが多く、第二言語の獲得には明らかな臨界期はないと考えられている。学習方法については、バイリンガル国家で使用されているイマージョンプログラムを紹介し、顕在的学習と潜在的学習について考察をした。学習するだけでなく常に第二言語を使い続ける環境が大切であり、学習後の環境などについても検討された。また、生まれた時から二言語に接して二言語を同時に獲得していく幼児と、継時的に二言語を獲得していく幼児とでは、言語の獲得の仕方が異なり、調査の際には配慮が必要であることがわかった。何歳からが継時的な獲得とみなされるかは研究者によっても異なり、これには幼児の環境も影響している。さらに、バイリンガルであることそのものが社会の中でどのような影響を受けるかということも検討された。第二言語の獲得によって子供の母国語の発達がうまくいかないこともあり、健全に二言語を育てることが大事だとされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、言語獲得の時期である幼児期や児童期において、二言語での言語獲得が子供達の知識や概念の形成にどのような影響を及ぼすのかを検討し、幼児期や児童期における二言語獲得の様相を調べ、日本語バイリンガルの言語獲得に関する認知発達モデルを構築することが目的である。 本年度は、バイリンガルの発達について研究協力者とともに資料収集を行って文献を検討し、バイリンガルの子供たちを対象とした研究をテキストとしてまとめた。その結果、今後の課題として、読む・書く・聞く・話すという4つの言語能力と二言語の発達の関係、二言語の獲得に影響する要因の検討、母国語とともに第二言語を健全に発達させていく必要性、同時に二言語を獲得する子供と継時的に獲得していく子供の違いなどが挙げられた。 二言語環境に育つ子供たちを研究対象としたこれまでの研究方法は、ほとんどが事例研究であり、できるだけ信頼性の高い量的資料を得ることが本研究の一つの目的でもある。言語的背景をそろえる際には困難も予想されるので、研究方法や刺激選択を工夫する必要があると考えられた。また、実施可能な研究方法や刺激などについても検討していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、4つの言語能力や言語の各領域(音韻、語彙、語意、文法、語用)について、研究協力者とともに、二言語環境にいる子供たちの様子を的確にとらえられるような実験方法や実験刺激を文献で検討していく。さらに研究方法や刺激が選定できれば、実際にデータを取ることも試みる。データ収集の際には、子供たちの言語的環境をできるだけ統制することに努める。今のところ実験方法は、絵カードを用いた語彙産出課題や手がかり単語を用いたインタビューなどを考えている。語りについては、年齢によって表出される量に差が出てくると予想されるので、子供の様子を見ながら無理をさせないように進めていく。語彙産出課題では、子供に絵カードを見せてそれに対応する名前をたずね、絵を見せられたときにどちらの言語で単語が出てくるかを調べたり、言語を指定して反応の様子をみたりする。これらが実際に有効な方法であるかどうかは、文献検討の結果とともに、他の研究者からの意見を聞く機会をもつ。データを取得した際には、関連学会等で成果発表をして他の研究者と交流したり、専門的知識の提供を受けたりし、それらを研究成果にいかしていくようにする。また最終年度なので、これまでの研究のまとめをして発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の不測の病気により準備が整わなかったこと、さらに体力回復が十分でなかったこともあり資料収集のための出張が延期された。延期された計画は平成31年度に施行される。さらに平成31年度は、実験データの収集をするための機器の購入や旅費、実験実施にあたっての実験補助、データ整理等の研究補助、専門的知識の提供等の謝金、消耗品や通信費、資料収集のための国内外の学会旅費等に経費を使用する予定である。
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