研究課題/領域番号 |
16K04343
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
松本 有貴 徳島文理大学, 人間生活学部, 教授 (90580887)
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研究分担者 |
石本 雄真 鳥取大学, 大学教育支援機構, 講師 (90612309)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 学校予防教育 / 学校認知行動療法 / 子どものメンタルヘルス / 教師効力感 / マルチレベル支援法 / 神経心理学的アプローチ |
研究実績の概要 |
持続可能な学校予防教育として,学校の事情に合わせた介入メニューを用意することが, 介入の実施を促進すると考えられる。これまでの介入実践においては,プログラム回数,時間が決まったものが多く,それらの回数や時間も短いものではないため,時間的ゆとりの少ない現代の日本の学校において実施することの障害となっている。一方で,学校の問題に対する危機意識が強く,多くの時間を介入に用いることができる学校も存在する。このため,複数の介入レベルの支援方法を提供することで,学校の事情に合わせた選択活用ができる。これらの背景から, 国際的に基準とされているエビデンス・ベースト・プラクティスの指標に照らし合わせるための方策を協議しながら, 以下を行った。 学校における小学1年生の適応支援を,エビデンスに基づき実践可能で継続可能な支援として構築するために,本年度は, 三レベルの支援方法を教員に提供し比較するという目的遂行に繋ぐため最も介入度の高いレベル3(10回のCBTプログラム「ファンフレンズ」)を2つの小学校1年生にて実施した。5・6歳児対象のプログラム効果をいかに測るかという方法について検討を重ね評価した。 介入度が中のレベル2「ブリーフCBT(BCBT)」は帰りの会で8回実施されるものであるが, その内容と研究結果を紹介する活動を行った。最も介入度が低いレベル1「CBTシート」は,セッションとして時間を設けたプログラムは行わず,学級で担任が指導に役立てることのできるCBTに基づく技術をシートで提供するものであるが, その内容をより有効にするために神経心理学の知見を活用し教材を作成している。三レベル介入の効果検証と比較のために, 3群を割り付け,教員のプログラムとスキル受容感・教師効力感+児童の不安・抑うつ・学校適応の変化を実践前後と終了3カ月後(可能なら学年末)に調査する研究の参加協力要請を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成28年度は、以下の3計画を遂行する予定であった。 1, 質問紙調査を準備する。保護者の同意書を得る。2, マニュアル・教材の作成とリクルート活動。地方都市小学校(大阪・和歌山・兵庫などの1年生学級を学校単位で)6校を募集する。2校を単位として3群に分け, 全参加校にて研修を実施する。3, 地域リソースに対して研究目的と意義を告知し広報活動を行う。課題を明らかにする。 しかし, 小学校1年生対象のプログラム評価方法と情報提供シートの内容について課題を検討したことで, 計画の変更がなされた。1番目の質問紙調査の準備として, 小学1年生児対象プログラム評価のための質問紙を検討した。子どもの不安の尺度として「スペンス子どもの不安尺度(SCAS)」, 多面的評価法であり内在化と外在化の問題を予測するのに効果的である「子どもの強さと困難さの尺度(SDQ)」を保護者に, 「学校適応尺度」と「サポート資源認知尺度」を子どもに依頼することを, 協力校と協議した。1年生担当教員との話し合いで, 解決すべき課題が出された。保護者の子どもの不安や行動の理解に懸念があること, 保護者のSCASとSDQ記入が難しい家庭があるということ, 子どもの認知レベルから回答の信頼性に問題があるだろう, である。そこで, 教員の質問紙記入の提案があり, SDQの25項目を全児童について教員記入を実施することになった。本研究における評価方法である質問紙の妥当性を見るために, 本年度は, 児童のプログラム前後と3カ月後の質問紙調査実施と分析を優先的に実施した。 2番目のマニュアルと教材の内容について検討の必要性が指摘されたことより神経心理学の教育的応用の理論と方法を学び資料を準備し, 教材作成にかかった。これらにより, 2番目のリクルート活動と参加校の決定, 職員研修など, 3番目の全計画は実施できていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では3年間のそれぞれの年度に対応し,研究計画を3つのパートに分けそれぞれの方策を設定していたが, 28年度計画が遅れたために, 29年度は, パート1の教員研修の準備(研修マニュアル・教材作りなど),参加校(小学1年生学級)のリクルーティングおよび3群割り付けと研修の実施を前半に行うこととする。学校現場は多忙であることから研究協力校のリクルートが難しい場合には, 教職員の会や研修などで三レベル介入について情報を提供し, 意見や感想を求め, それにより研究協力校をリクルートする。 平成29年度実施予定だったパート2は, 後半に行うこととする。その内容は, 三レベルの介入方法を実施し, それに伴い, プレ,ポスト,フォローアップでの質問紙調査を3群同時期に児童・保護者・教員に行い, 介入レベルに基づく3群比較分析を実施することである。エビデンス・ベースト・プラクティスの評価指標を参考に, プログラムの実施度・忠実度の調査も含める。6校の協力校リクルートが難しい場合には, 3校における三レベルの割り付けと効果比較を実施する。 28年度に課題として検討を行ってきた, 小学1年生に対するプログラム評価の分析と課題の検討は, 子どもの心理学の研究に貢献すると認識できるため, 国内と国外の学術学会で発表し, この分野の関係研究者より議論と示唆を仰ぐ。先行文献において, 子どものメンタルヘルス支援における早期介入の重要性は述べられているが, 就学前後の児童に対する予防教育の評価は少ない。オーストラリアの研究(Anticich, 2013)では, 「ファンフレンズ」はカトリックスクールにおいて行われており, 保護者のソシオ・エコノミックレベルにおいて日本の公立小学校と異なると考えられる。日本の公立校で実施可能な評価方法の検討は必須であり, 学術学会における議論は研究に貢献すると期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度の計画実施のために主に以下の活動の経費が必要になる。 協力校6校リクルート, 3群に分かれた学校にて実施する三レベルの介入プログラム教材と資料・質問紙提供・スーパービジョン, 研究協力校における職員研修の準備と実施, データ入力と分析。研究結果は国内・国際学術学会にて発表する予定である。同時に, 国際学術雑誌に投稿予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
協力校リクルートのための教育委員会や学校, 関係機関訪問の旅費と通信費。3群に分かれた学校に支給するプログラム教材と資料・質問紙にかかる費用(ワークブック代・資料と質問紙の印刷費・送料など)。スーパービジョン・職員研修の準備と実施(旅費と印刷費・通信費など)。データ入力と分析(人件費・謝金)。研究結果を発表する学会の参加(旅費と参加費)。研究結果を国際学術雑誌に投稿する英語論文の校訂費用。
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