研究課題/領域番号 |
16K04359
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
相澤 直樹 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (10335408)
|
研究分担者 |
山根 隆宏 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (60644523)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 認知バイアス / 精神障害 / 臨床心理学 |
研究実績の概要 |
平成28年度は下記のような研究成果を得た。 1.年度当初に研究分担者と連絡を取り、本年度の研究目的、研究方法、学会等への参加計画、物品の購入計画について検討し、本年度の研究計画を策定した。なお、研究分担者の山根は、本年度10月に研究代表者と同じ所属に移動したため、研究に関する打合せは研究の進展に応じて随時実施した。 2.年度当初から認知の偏りや歪みに関する国内外の研究文献を広範囲に収集し、それらを分析することによって本研究の調査実施に必要な基礎的な知見を整理した。その結果、認知の偏りについては、抑うつ、社交不安、攻撃性のみならず、強迫性障害や身体表現性障害、摂食障害など幅広い臨床症状との関連で研究されていることが明らかとなった。 3.本研究の予備研究として自己愛傾向と敵意帰属の関連を検討する調査研究を分析したが、当初仮定していたような関連を見出すことができなかった。この研究結果は、日本教育心理学会第58会総会において一件のポスター発表として公表した。この発表での議論から認知の偏りの測定方法の再検討の必要性が示唆された。 4.認知の偏り、ならびに関連する心理的障害に関する最新の研究知見を収集するため、研究代表者が日本心理臨床学会第35回秋季大会、日本教育心理学会第58会総会に参加し、関連する研究発表、シンポジウムに参加し、同分野の研究者と意見交換をおこなった。 以上の研究成果を受けて、認知の偏りや歪みと臨床症状の関連について統合的に検討をおこなった。その結果、文献資料研究の成果としては、さまざまな臨床症状の背景要因として多様な認知の偏りが作用していることが明らかとなった。しかし、予備研究の結果は、その測定方法について再検討の必要性が示唆された。これまでの文献資料研究の成果を大学紀要論文として公表する準備に着手するとともに、測定方法の確立に向けたさらなる予備研究の計画を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画の達成度を文献資料研究の進捗状況、調査研究の計画と実施状況、成果の公表の観点から次のように評価した。認知の偏りと関連する精神障害に関連する研究論文、専門図書等を広範に収集し、おおむね必要な先行知見の収集整理を終えている。特に、これまで想定していなかった強迫性障害や身体表現性障害、摂食障害、統合失調症等に関する文献を収集整理したことで、今後の調査研究の立案に有用な知見を多く得られた。以上の点から文献資料研究については順調に進展しているものと評価した。一方で、自己愛傾向と敵意帰属の関連を検討した予備調査研究では、仮説どおりの信頼性や相関関係を検出することが出来ず、検討の結果、測定方法の再検討が必要と考えられた。そのため、今後質問項目法や実験的方法に関する再度の予備調査が必要となったため、研究は十分な進展を見せなかった。したがって、この点についてはやや遅れているものと評価した。成果の公表については、すでに予備研究の成果を日本教育心理学会第58会総会において一件のポスター発表として公表している。また、文献資料研究において必要な先行知見の収集を終えており、その成果を次年度に大学紀要論文として公表する準備に着手している。しかしながら、成果の公表はやや遅れているものと評価した。以上のような研究計画全体の進捗状況を考慮して、本研究課題の実施状況はやや遅れているものと評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
以上の研究実施状況を考慮して、今後の研究の推進策として以下の点を講じることとした。 1.先行知見の収集整理については、これまでの成果を踏まえ研究の中間成果を報告するレビュー論文を大学紀要に投稿する。また、その後も国内外の幅広い範囲において、同分野の先行知見と研究成果を継続的に収集整理し、さらなる知見の集積に取り組むものとする。特に、認知の偏りの測定法については、今後も詳細に文献を検討して本研究の手法の確立に資するものとする。 2.調査研究については、今年度の予備調査の成果から測定方法の再検討が必要なことが示された。したがって、従来も用いられてきた場面想定法に加えて、個々の質問項目に対する回答を求める一般的な質問項目法や音声刺激等を用いた実験的手法等について検討し、出来るだけ早い段階で予備調査を実施するものとする。得られたデータを統計的に分析し適切な手法を確立するとともに、次年度内には本調査の実施準備を整えるものとする。 3.調査の実施にあたっては、研究手法の確立の後に、神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究倫理審査委員会に倫理面での審査を申請し承諾を得るものとする。また、本研究の目的の一つとなっている臨床場面での調査の実施にあたっては、協力医療機関との密接な連携のもと、研究代表者が調査の実施面に綿密な配慮を行いながら計画、実施するものとする。 4.成果の公表にあたっては、国内の心理学関連書学会でのポスター発表、口頭発表、心理学関連の学術専門誌や大学紀要等にレビュー論文、ならびに研究論文の投稿をおこなう。その際、神戸大学学術成果リポジトリ等の学術情報データベースを積極的に活用することを通じて、研究成果の効率的で円滑な社会への還元を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予備調査に関する学会発表での質疑を踏まえ、調査協力者への調査方法の中心に研究方法の再検討をおこなう必要性が生じた。本来の研究計画であれば、この予備研究の成果を受けて、より広範な調査測定に向けた予備的調査の実施、ならびに本調査への準備をおこなう予定であった。平成28年度における次年度繰越額は、本来順調に予備調査研究が進行していれば必要となった調査用紙の印刷費、調査実施に関わる旅費、予備調査結果のデータ入力や統計分析の補助のための人件費等の経費の執行が次年度以降に繰り越されたために生じたものである。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度では、上記の支出も含めて、以下の使用計画に則り研究費を執行する。年度当初より認知の偏りや歪み、ならびに臨床症状に関する研究論文の取り寄せ、関連する国内外の図書の購入を継続する。主に4月から10月にかけて調査手法の検討をおこない、その結果実験的手法を実施する必要が生じた場合には、11月から年末にかけて必要な刺激作成ソフト、刺激提示モニター等実験関連機器の購入をおこなう。9月から11月にかけて開催される日本心理学会、日本心理臨床学会、日本教育心理学会等の関連学会に参加し、同分野の研究者との最新研究情報の交換をおこなう。11月以降の予備調査の実施にあたっては、一部調査旅費が必要になる可能性がある。また、年明けの2月以降、調査データの入力と分析のために研究協力者を1名雇用する。成果の発表のために、次年度以降の学会発表、論文投稿に向けて学会参加費や印刷費が必要となる。
|