近年,さまざまな精神障害の発生と維持に関わる要因として認知の偏り(cognitive biases)が注目されている。本研究課題の目的は,多種多様な精神障害に関わる認知の偏りを総合的に評価する認知特性プロフィール尺度を作成することである。 研究期間の初期に認知の偏りに関する先行知見を収集整理し,気分障害(うつ病),社交不安障害,強迫性障害,精神病(統合失調症)等に関連する認知の偏りの特徴を抽出した。それらの知見に基づき,認知の偏りに密接に関連する主観的体験を総合的に測定する認知特性体験尺度を作成し,一般成人男女(合計1525名)に実施した。また,尺度の妥当性を検討するため,気分感情状態を測定する尺度,外向性尺度,ストレス反応尺度を同時に実施した。 得られたデータに基づき,認知特性体験尺度の項目群の背景にある要因を因子分析によって検討したところ,おもに抑うつに関連する認知の偏りと不安に関連する認知の偏りに大別されることが明らかになるとともに,不安・被害念慮,否定的体験への取り込まれ,懲罰的な世界,完全主義・曖昧さ回避の4つの潜在因子が抽出された。また,尺度の妥当性については,いずれの要因も抑うつや不安,怒り,不機嫌などのネガティブな気分感情状態と正の相関を示すのに対して,活気活力,友好などの肯定的な気分感情状態,ならびに外向性との関連で弁別されることが示唆された。 本研究課題のよって多種多様な認知の偏りを総合的に評価する包括的な測定尺度が作成されるとともに,その主要な背景的要因が明らかにされたことはこれまでにない独創的な研究知見であるといえる。くわえて,認知の偏り全体が抑うつに関連するものと不安に関連するものとに大別されること,ならびにそれらがポジティブな気分感情状態や特性との関連で弁別されることが示唆された点は,先行研究の知見に一致する有意義な成果であると評価される。
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