本研究では、アルツハイマー病へ移行する可能性の高い軽度認知障害(mild cognitive impairment、以下MCI)、アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease以下AD)群、比較のための健常高齢者群を対象として、記憶モニタリングの正確性について検討した。語彙的知識に関する想起・記憶モニタリング課題、エピソード記憶に関する想起・記憶モニタリング課題を行い、日常生活での記憶モニタリングに関する尺度をも併せて評価、課題間の違いを評価した。精神的健康度との関連についても老年期うつ病評価尺度(GDS)と日本版主観的幸福感尺度(HS)を用いて検討した。 エピソード記憶に関する想起可能性評価課題と想起課題、漢字単語を用いた語彙的知識に関する想起可能性評価課題と想起課題、日本版成人メタ記憶尺度、神経心理検査、うつ尺度等をMCIと軽度AD患者群に施行した。エピソード記憶における直後・遅延再生において健常者よりもMCI、軽度AD群で低下を認めた。モニタリングの正確性について、MCI、軽度AD群は健常者よりも低下しており、自己評価が高いことが示された。語彙的知識に関しては、想起可能性、書取ともに健常者よりもMCI、軽度AD群で低下を認めたが、モニタリングの正確性については、3群間に有意差はなかった。軽度ADにおいても語彙的知識に関する記憶モニタリングが保たれている可能性がある。日本版成人メタ記憶尺度では下位尺度のうち変化因子でのみ有意差があり、MCI、軽度ADは健常高齢者より記憶機能において年齢による変化を感じていないことが示唆される。精神的健康度との関連について、GDSはMCI/AD群にエピソード記憶の正確度と相関を認め、MCI/AD群ではうつの程度が高いとエピソード記憶における自己評価が低くなるという関連が示唆された。
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