研究課題/領域番号 |
16K04362
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
成瀬 九美 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (90193581)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 身体的同調 / 注意機能 / リーダー・フォロワー / 自己調整 |
研究実績の概要 |
(1)「自分らしさ」尺度と注意機能の関連検討: 意識の向け方による心のとらわれ尺度と注意機能との関連性を検討した.第1因子:「他者視点からの自己へのとらわれ」,第2因子:「自己視点からの自己へのとらわれ」因子,第3因子「外的対象へのとらわれ」に対して,Attention Network Test(以下ANT)による注意機能(喚起機能・定位機能・実行機能)との関連を調べた実験では,因子3と喚起機能に弱い負の相関がみられた.注意・対人スタイルテスト(TAIS )を用いた実験では,因子1は「自身の考えや感情に反応して何か行動を取る」傾向および「意見や考え」や「肯定的感情」を他者に表出する傾向と関連する一方で,「自己尊重」や「内向性」とも関連した.因子2は「内向性」と関連し,外界から多くの情報を収集し有効に統合できるが,焦点を狭くしすぎる傾向が示された.因子3は因子2と同様に,外界から多くの情報を収集し有効に統合できるが,焦点を狭くしすぎる傾向が示された.因子1と因子2はSTAIの特性不安検査との有意な正の相関が認められた. (2) 同調プロセスの動作学的分析:二者同調実験についてペアごとの同調プロセスを分析した.対人交流における自己調整(個人変容)は,①リーダー遂行時(自分にとって心地良い速度維持)と実験前Preferred Pace (以下PP)との速度差,②フォロワー遂行時(相手の速度への追随)の正確さ,③実験前後のPPの変化,④3条件における速度可変幅,から捉えることができた. (3) 臨床事例の分析:幼稚園3歳児クラスの自由遊びおよび異年齢活動(3歳児~5歳児の交流活動)を観察記録し遊びの成立や継続に関与する要因をリズムや空間使用から分析した.自由遊びの中に未調整のリズムを整えることや崩壊したリズムを回復させる等のフォロワー役割の萌芽を予測させる行為が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は同調プロセスにおける自己調整(産出と取り入れ)の諸相を実験やフィールドワークによって収集・分析し, 心理的背景や認知機能との関連性を明らかにし,過剰な自己意識や他者意識がもたらす「自分らしさ」の喪失など, 他者との交流場面に起こり得る臨床的諸問題の解決に貢献するものである. 当該年度は,外的対象および内的対象に対する意識の向け方と注意機能との関連を実験および調査から検討した.また,二者同調実験を行い,対人交流における自己調整モデルを示すことができた.三者同調実験については事例数が少なく統計的処理を行うには到らなかった.臨床事例については,幼児の自由遊びから他者交流の分析を行った.これらの取り組みによって最終年度につながる研究成果を得ることができ,当該年度の目標を達成した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)三者同調実験を継続実施し,二者同調実験で示された自己調整モデルを更新する. (2)フィールドワークや観察による事例収集を増やし,同調不全のケースに対して, 専門家(臨床心理士等)の協力を得て, 臨床的課題の解決に繋げる観点を整理し,今後の研究の方向性として位置づける. (3)研究成果を積極的に公開し,医療, 福祉, 教育などの現場で人々の心身の健康を支援する専門職の人々を対象にしたワークショップ等を企画する.
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