研究実績の概要 |
コミュニケーションには, 自己の動きを表出する産出の局面と他者の動きを受け入れる取り入れの局面があり,同調はこれらが他者と自分との間で円滑に循環する状況である.能動と受動が織り込まれて進行する身体的コミュニケーションでは,相手に応じて変化する自己調整が求められる.本研究は実験やフィールドワークによって身体的コミュニケーションにみられる同調事例を収集・分析して自己調整の諸相を把握することを目的とする.これまでに,(1)対象に過剰に注意を向ける「心のとらわれた状態」と不安傾向および注意・対人スタイルとの関連性, (2)二者間の速度同調プロセスの可視化および速度可変幅とコミュニケーションスキルとの関連性 ,(3)日常的場面(幼稚園児の自由遊び)におけるリズムや空間使用からみた同調プロセスの分析,等を行った. 本年度は臨床的課題の解決に繋げる観点を整理するため,個人の情緒的社会的認知的身体的統合を促進する一過程として動きを用いるダンス/ムーヴメントセラピー(以下DMT)を対象として研究を進めた.DMTでは,セラピストが動きの強さ・空間(方向)・リズム・フォルムを使い,即興的な関わり合いを促進する.セッション事例の分析から, DM セラピストの動きが応変性や交替性を保証する枠組みとして機能することを見出した.また,DMTの技法のひとつである「オーセンティック・ムーヴメント(authentic movement; 以下AM)」における動き手であるムーヴァー(以下 M)と見守り手であるウィットネス(以下W)の主観的交流を分析した結果,M動く/W見るという異なる体験において,両者は似通った動きを抽出するが,想起するイメージや情緒は異なっており,他者との間に生じる〈重なり〉(類似体験)と〈へだたり〉(個別体験)を両者が受け止めることによって身体的共感性が高められることを指摘した.
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