研究課題
社交不安症に対する認知行動療法においてエクスポージャーを実施するときには,対人場面からの回避行動だけではなく,その場面のなかで震えや動悸などの身体症状や不安感情を抑えようとする回避行動も治療ターゲットとして取り除く必要がある。一方,患者の行動が回避であるのか,適応的な対処行動であるのかの判別は難しい。そこで本研究では,患者が回避的な状態にいるかどうかを脳波で判別し,接近的な状態を獲得する技法の開発を目的としている。接近的状態を獲得するための行動として,「第3者になったつもりで刺激に直面する」psychological distancingと親切行動や利他的な行動を含む向社会的行動をとりあげる。平成28年度は,向社会的行動を高めるトレーニングであるマインドフルネストレーニング(MT)に関する実験研究を行った。臨床場面においてMTと併用されることが多い漸進的筋弛緩法を単独で実施した場合,MTと併用した場合,さらに併用する場合の実施順序について大学生20名を対象に検討した(マインドフルネス先行群10名,筋弛緩法先行群10名)。Trier social stress testを参考に,面接官の前で暗算課題を5分間行うストレス負荷後に,MTあるいは筋弛緩法を決められた順序で行った。その結果,単独実施時にはいずれの群においてもストレス得点の減少がみられた。一方,併用した効果を調べたところ,筋弛緩法先行群においてのみ,さらなるストレス反応の減弱がみられた。したがって,筋弛緩法を行ってからMTを行った方が,どちらかの方法を単独で行った場合よりもストレス減弱の効果が高まることが明らかにされた。生理指標(心拍率,皮膚伝導水準)の結果をみると,筋弛緩法を先に行った場合,単独実施時に皮膚伝導水準の低下がみられ,この身体反応の変化がマインドフルネス状態の増強に影響している可能性が考えられる。
3: やや遅れている
当初購入予定であった脳波計が予算減額によって購入できなくなったため,予算内で購入できる最良の脳波計を探す時間を要した。脳波は測定できなかったものの,自律神経系の指標を測定しながら,向社会的行動を増大させる基礎的な方法であるマインドフルネストレーニングの実施方法に関する実験研究を行うことができ,次年度につながる成果を得ることができた。
平成29年度当初には脳波計を購入する予定である。社交不安者がエクスポージャーを行うときに向社会的行動を併用することによって,感情の主観指標や前頭部脳波パワーの左右差にどのような効果がみられるのかを実験的に検討を行う。
予算減額によって,当初(応募時)購入予定であった脳波計を購入することが難しくなった。本研究課題を実施するために最良の脳波計と電極を選ぶために,あらためて情報収集を行う時間が必要であった。その結果,200万円ほどの残額が生じた。
連携研究者の協力を得ながら情報収集を行うことによって購入する脳波計が確定した。脳波計および電極を購入する費用に充てる。
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