最終年度には,共同研究者とともに向社会性を測定する尺度を作成し,社交不安との関係を調べた。576名を対象とした調査の結果,向社会性尺度は社交不安を測定する尺度と-.20の相関関係にあり,向社会性が高いほど,社交不安が低いことがわかった。 また,社交不安のひとつである「あがり傾向」の高い者23名をスクリーニング調査によって抽出し,1週間のマインドフルネストレーニング(ボディスキャン瞑想)を行う群と行わない統制群に分けて実験を行った。実験の結果,あがり傾向を測定する尺度(Features of Agari Experience Questionnaire)と社交不安の程度を測定するLiebowitz Social Anxiety Scaleの得点がマインドフルネス群で有意に減少するとともに,介入後にはマインドフルネス群は統制群に比べて有意に得点が低かった。すなわち,1週間のマインドフルネストレーニングによって,社交不安の程度が減弱することが明らかにされた。一方,向社会性尺度の得点においてはマインドフルネストレーニングの効果はみられなかった。 3年間の研究を通じて,マインドフルネストレーニングは社交場面における主観的なストレス反応や皮膚電気反応を弱めるとともに,特性的な社交不安の程度を減弱させることが明らかにされた。さらに,向社会性を高める要素が重視されるマインドフルネストレーニングの一形態である「慈悲の瞑想」は基本的なボディスキャン瞑想や注意を外に向けるトレーニングの効果を上回ることが示された。しかしながら,慈悲の瞑想だけでは社交場面における効果が十分ではなく,エクスポージャーと向社会的行動を促す介入を併用することが,社交場面に対するエクスポージャーの効果を高める可能性が示された。
|