研究課題/領域番号 |
16K04374
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研究機関 | 作新学院大学 |
研究代表者 |
田所 摂寿 作新学院大学, 人間文化学部, 教授 (80616300)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 専門能力 / 公認心理師 / 臨床心理士 |
研究実績の概要 |
平成30年度においては,ゲートキーピングに関する教員を対象とした調査と大学院組織を対象とした調査を行った。この調査は,心理臨床の専門家として適切な能力を有していないカウンセラー志望者についての質問紙調査である。まず,臨床心理士第1種指定校の教員を対象としてweb調査を行った。個別の教員を対象とした調査では,心理臨床家として適切な能力を有していないと教員が判断する学生がどの程度の割合なのか,また心理臨床家として望ましい資質や能力はどのようなものかを尋ねた。続いて公認心理師養成を標榜している大学院に対して郵送調査を行った。この調査では入学試験においてどのような選抜方法を行っているのか,専門能力に問題があると判断された学生への対応などについて尋ねた。 またカウンセラー教育先進国である米国よりカウンセラー教育者を招聘し,一般から専門家を対象として,New Jersey City University の小川裕美子准教授による「アメリカにおけるカウンセラー教育の現状」と題した講演会を行った。本講演会では,アメリカのカウンセラー教育の変遷に加えて,現在の教育内容として注目されているトピックス,さらには日本におけるカウンセラー教育にとって必要な視点についての話題が提供された。その後小川博士,日野宜千日本カウンセリング学会副理事長,報告者による鼎談により,日本のカウンセラー教育において行うべきことについて討論が行われ,参加者からも活発な意見が出された。 研究成果としては,日本カウンセリング学会の「カウンセリング研究」に展望論文を1本,大学の紀要論文に3本研究論文を執筆した。さらに学会発表としては日本カウンセリング学会第51回大会(松本大学)にて,4本の研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
データの収集は十分に行うことができたが,これらのデータの分析に多くの手間を要し,予定通りには進んでいない現状にある。大きな要因としては,研究計画当初予定していなかった米国より研究者を招聘しての講演会の実施である。この準備や講演者との打ち合わせのために多くの時間と手間を要した。また研究の方向性がさまざまな発展をみせており,研究をまとめる上では俯瞰的に研究全体を捉えなおし,発展させるべき方向性を定める必要が出てきた点も大きい。そこでもう1年研究期間を延ばし,研究成果をまとめると同時に,研究成果について海外も視点に入れた公表方法を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
第一に,ゲートキーピングについての日本で初めての実態調査について,海外の学会での報告である。米国などにおいてはこれらの取り組みについてはかなり進んでおり,対応策のマニュアル,評価ルーブリックなどが作成されている。国家資格化された日本ではこれらの取り組みにはるかに遅れているが,国家資格化が専門資格に与える影響など,日本の風土や文化に則したゲートキーピングの方法があると考えられる。この文化や風土,そして時代的文脈に合わせた専門家養成のためのゲートキーピングは,他の国の取り組みに対しても役に立つ部分があると考えられる。日本での研究の意義を見出すための他国との比較,また他国の研究者との活発な意見交換を行う。 第二に,カウンセリングのスキルや心理学の専門知識などのアカデミックな能力を評価する指標,加えてノンアカデミックな専門家としての資質や能力を評価し,教育していくための指標を作ることが必要である。今年度は米国の研究を訳したルーブリック評価を試み,これらの成果についてまとめている段階である。しかしながら日本の文脈とはどうしてもずれてくる部分もみられ,評価内容についての精査が必要となっている。実際に学生を教育しながら,教員・学生双方から意見を聴取し日本版のカウンセラー教育における資質ルーブリック評価の完成を目指したい。 最後に,本研究の最大の目的である,ロールプレイを用いたカウンセラートレーニングプログラムの開発である。既に多くのデータを集めているが,これらのデータを分析し,ロールプレイの効果について明確な指標を打ち出しまとめることが必要となっている。このためには質的な分析がより重要となっており,研究協力者とこの作業を順次進めている。さらにロールプレイを使ったトレーニング方法にはさまざまな手法があり,これらを各教育段階に分けてまとめていくことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に質問紙調査を個人および組織に対して行ったが,質問紙の回収に想定していた以上の時間を要したため、データ分析を年度内に行うことが困難となった。加えて研究を行う上でのデータの分析方法を根本的に見直する必要が生じた。そのため収集したデータを俯瞰的に整理し直し,その上で量的および質的に分析方法の方向性を明確に定め分析を行うこととした。そこで計画を変更し,次年度にデータ分析を行うこととし研究成果をまとめていく方針である。 加えて、この調査の結果を令和元年度に行われる国際学会での発表を計画している。これはカウンセラー教育における評価方法について文化や風土,時代的背景の異なる点を考慮した研究が必要と考えられるためである。 以上の理由により、未使用額はデータ分析のための人件費と海外出張の費用に充てることとした。
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