研究課題/領域番号 |
16K04380
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研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
山口 創 桜美林大学, 心理・教育学系, 教授 (20288054)
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研究分担者 |
本田 美和子 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), その他部局等, 医長 (40575263)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ユマニチュード / 発達障害 / 自閉症スペクトラム障害 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、自閉症と診断されている子どもと保護者4組に対し、ユマニチュードの介入実験を行った。具体的にはまず、世田谷区と目黒区の療育施設を対象に、研究参加者の募集を行い応募した4組が対象となった。応募した4組については、予め研究の説明を行い、倫理的配慮を行った上で同意をとった。 事前評価は9月中に東京医療センターで行い、母親を対象にユマニチュードの考え方や子どもとの具体的な接し方について教示した。またその際、保護者には質問紙調査を行い、子どもにはスタッフと遊んでいる場面の行動撮影を行った。 その後、家庭での子どもとの接し方について、うまくいかない点や困っている点について、家庭で親子のコミュニケーションの様子をビデオで撮影してもらった。撮影されたビデオについては、東京医療センターに持参してもらい、それをスタッフと観察しながら改善点について指導を行った。これを10月と11月に1回ずつ行った。相談はユマニチュードのインストラクターが各1時間程度行った。 12月には事後評価として、親子に東京医療センターに来訪して頂き、質問紙調査と行動評価を行った。 実験の結果については、保護者の育児不安と、子どもの自閉症症状について質問紙調査の結果を事前・事後で比較を行った。その結果、育児不安の3因子(中核的育児不安・育児感情・育児時間)については、3ヶ月の介入によって低下していた。一方、子どもの自閉症症状については、「対人関係・社会性の問題」、「コミュニケーションの問題」、「その他」については、概ね低下していたのに対して、「くせ・きまりについて」の症状については介入後に上昇していた。その理由については今後さらなる研究を行う必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は平成28年度は研究計画の立案と倫理審査に通すことを目標にしていたが、この点については計画通りに進んでいると評価できる。ただし、倫理審査に通す際に、研究を行う医療機関での審査が予定以上に時間がかかってしまい、研究の実施が3ヶ月ほど遅れた点は反省点としてあげられる。平成29年度については、当初は4月より研究参加者の募集を始める予定であったが、これが7月の開始となった。7月より複数の施設で研究参加者の募集を行った。研究に参加したのは4組であり、これは予想外に少ない人数であった。それは発達支援施設での了解を得ることや、発達障害を有する子どもの多くは、すでに何らかの発達支援施設での療育を受けているため、本研究からは除外する必要があったため、結果として参加基準を満たす子どもの人数が少なくなったことがあげられる。当初は参加者を増やすためにもっと時間をかけるべきか迷ったが、やはり計画通りの研究を遂行することを優先することとした。結果的には、4組の参加者ではあって、9月からは研究を開始することができ、予定通りの結果と、さらには本研究の問題点についても明らかになった。 それは例えば、ユマニチュードのスタッフにとって、発達障害の子どもへの支援は初めてであるため、どのような指導を行ったらよいのか戸惑ったことや、家庭だけではなく、保育園などでも同様のユマニチュードに基づくアプローチをすることで、さらに症状の緩和効果が期待できることなどがわかった。 このような研究の計画の実施は、当初から予定していた通りであると考えることができ、次年度はそれらの点についても留意した研究を行う必要があると考えている。このことについても研究計画通りであると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は研究計画の最終年である。平成29年度の研究結果により、自閉症スペクトラム障害の子どもの保護者の育児不安を大きく低減させることができた。また、そのような子どもの症状は、ユマニチュードのアプローチによって概ね緩和させることができることもわかった。特に社会性の問題やコミュニケーションの問題については、顕著な緩和効果が認められた。ただし、研究結果からは、自閉症スペクトラム障害の子どもに特有の問題である、「くせ・きまりの問題」については、緩和させることができなかった。「社会性の問題」や「コミュニケーションの問題」については、ユマニチュードに基づく関わりによって、子どもの脳内でオキシトシンの分泌を高めた結果であると推測される。ところが「くせ・きまりの問題」については、オキシトシンの作用によって効果を期待できないため、ユマニチュードとは異なる視点のアプローチが必要であることも考えられる。 そこで平成30年度の研究は、①自閉症スペクトラム障害の子どもの「くせ・きまりの問題」がユマニチュードによるアプローチにより高まる可能性について、その原因を明らかにしたいと考えている。具体的には、このアプローチを行う養育者が子どもの行動について気づきが高まったために、そのような傾向が高まったと評価された可能性が考えられる。そこで実験によりそのようなことが起こるか、について基礎的な研究を行う予定である。さらに②ゆまにちょーどに基づくアプローチにより、脳内でオキシトシンが分泌され、「社会性・コミュニケーションの問題」が本当に改善されたのか、明らかにしたい。そのため健常者を対象に、ユマニチュードによる関わりを行う場合とそうでない場合で、脳内オキシトシンの分泌に差があるか、明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初の研究計画で予定していた、自閉症スペクトラム障害の子どもの認知機能を明らかにするための「視線追尾眼鏡」の購入をしなかったことと、自閉症スペクトラム障害の子どもの症状について専門家からの評価を受けることを中止した、専門家への謝金や交通費が不要になったためである。「視線追尾眼鏡」の使用をしなかったのは、対象児の認知機能を明らかにすることは本研究の目的からは直接的な関係が認められないと判断したことによる。また、専門家からの子どもの評価をやめた理由については、本研究の目的として、自閉症スペクトラム障害の子どもの症状の評価というよりも、普段から接している養育者が困難を感じている関わり方について改善することを目的としているため、専門家からの評価は特に必要ないとの判断をしたことによる。 このため次年度生じた使用額については、当初の研究の目的に沿うように、ユマニチュードに基づく関わりにより脳内オキシトシンの分泌について、参加者を増やして検討することを考えている。
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