研究課題
今年度は、社交不安症の維持要因である自己注目と脅威モニタリングに対する介入の効果指標を開発するために、注意の偏りに関する質問紙の作成、注意の偏りの基盤にある能動的注意制御機能を測定する認知課題の作成、社会的場面における注意の偏りを客観的に測定する行動指標の作成を行った。第一に、自己注目の構成要素である「観察者視点」を測定するために「社交不安症における心的視点尺度」の開発を行った。また、注意の偏りに影響を及ぼす注意の方略を測定するために「注意の向け方に対するメタ認知的信念尺度」の開発を行った。大学生300名を対象に調査研究を行った結果、2つの尺度はいずれも十分な妥当性と信頼性が示された。したがって、注意の偏りや、注意の偏りに影響を及ぼす変数を簡便に測定することが可能になった。第二に、能動的注意制御機能を測定する両耳分離聴課題を作成し、光トポグラフィー(NIRS)を用いて能動的注意制御機能の各コンポーネントに対応する脳領域を明らかにした。第三に、視線追跡装置とNIRSを用いて、自己注目や脅威モニタリングをしながらスピーチ課題を行った際の視線と脳活動を測定し、客観的指標の確立を試みた。大学生40名に対して視線計測を行った結果、自己注目を行うと否定的な反応をする他者を回避することが示唆された。また、脅威モニタリングは全ての刺激を十分に知覚できていない状態であることが示唆された。したがって、視線計測によって各注意の偏りを弁別して捉えられる可能性が示唆され、2つの注意の偏りを測定する客観的指標を確立できる見通しが概ね示された。NIRSのデータについては現在解析を進めているところである。なお、本研究の基盤となる知見を得るために、脅威モニタリングを測定する尺度の作成、能動的注意制御と入眠困難との関りの検討、注意訓練の実施が脳活動に及ぼす効果の検討を進め、それぞれの成果を発表した。
2: おおむね順調に進展している
初年度の主な研究実施計画は、「注意の偏りに関する質問紙の作成」と「注意の偏りの基盤にある能動的注意制御機能や、社会的場面における注意の偏りを客観的に測定する行動指標の作成」の2点であった。前者については、十分な信頼性と妥当性を有した2つの尺度を作成したことから、計画は達成できたといえる。後者については、視線データおよび脳データの下処理や解析は相当の時間を要するものであり、翌年度も一部解析を進める必要があるため、計画は達成できていない点もある。しかしながら、能動的注意制御機能を測定する指標の作成については、研究の実施および研究成果の発表はすでに終えている。また、スピーチ課題を用いた実験研究についてもデータ収集を終えており、視線追跡装置の解析結果によって注意の偏りを測定する客観的指標を確立するための見通しが立ちつつある。したがって、研究は概ね順調に進展していると考えている。
今後の研究では、初年度に行った実験のデータ解析を進めるとともに、大学生を対象とした実験研究を進め、特別な教示がない状態で、社交不安傾向者において注意の偏りを表す視線や脳の活動が表れるかどうかを明らかにする。現在13名のデータを取得済みであるため、40名に達するまでデータ収集を続ける予定である。さらに、注意の偏りを修正する介入法として提唱されている「状況への再注意法(SAR)」の作用機序の解明と介入プロトコルの作成を行う。具体的には、実験参加の同意を得た大学生40名をSAR群と統制群に振り分け、スピーチ課題を用いた計4日間の実験を行う。SAR群には、社会的場面において適切な注意の向け方を獲得するための訓練(SAR)を行った上でスピーチ課題を実施する。質問紙の測定に加えて、介入中と介入前後のスピーチ中には脳と視線の同時計測を実施し、注意の偏りが修正されたかどうかを客観的指標を基に明らかにする。研究結果を基にしながら、SARの介入プロトコルを精緻化していく。さらに、研究成果の発表も適宜進め、年度末の報告書執筆につなげていくようにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 7件) 図書 (1件)
Perceptual and Motor Skills
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1177/0031512517700054
不安症研究
巻: 8 ページ: 12-21
http://doi.org/10.14389/jsad.8.1_12
早稲田大学臨床心理学研究
巻: 16 ページ: 55-64