研究課題/領域番号 |
16K04389
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
熊野 宏昭 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (90280875)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社交不安症 / 自己注目 / 脅威モニタリング / 状況への再注意法 / メタ認知療法 / 光トポグラフィー / 視線追跡装置 / 右前頭極 |
研究実績の概要 |
今年度は、社交不安症における注意の問題に対する介入の効果指標を作成し、その上で、社交不安傾向を有する大学生を対象に「状況への再注意法(Situational Attention Refocusing: SAR)」を用いた介入研究を予備的に実施した。 まず、社会的場面における自己注目(自己への過度な注意)と脅威モニタリング(他者への過度な注意)の客観的指標を確立するために、スピーチ中に自己注目と脅威モニタリングを行った際の視線の動きと脳活動を測定した。その結果、自己注目は右前頭極の脳の活性化と脅威的な他者を回避する視線の動きによって捉えらえ、脅威モニタリングは左上側頭回の脳の活性化と聴衆全体を回避する視線の動きによって捉えられることが示唆された。 続いて、脅威モニタリングへの介入技法とされているSARの奏功機序や介入効果を確認するため、社交不安傾向を有する大学生17名を対象とした2週間の予備的な介入研究を実施した。群設定は、SARと行動実験を併用する群(SAR+行動実験群: 9名) と行動実験のみを行う群(行動実験単独群: 8名) の2群で行った。その結果、SAR+行動実験群において、脅威モニタリング尺度 (熊谷他, 2016) の得点が中程度の効果量で低減した。しかしながら、脅威モニタリングを制御するメタ認知的信念の変容や視覚的注意の変容まではもたらされず、社交不安症状の低減も小さい効果量であったことから、SARは注意の修正だけではなくメタ認知的な意図を伝えながら実施する必要があることが考えられた。 以上より、社交不安における注意制御不全への介入法の最適化にむけて、社会的場面での変化を捉える指標を確立した点、予備的研究に基づいて介入手順の調整を行った点が今年度の研究実績である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究実施計画は、状況への再注意法(Situational Attention Refocusing: SAR)の作用機序の解明と介入プロトコルの作成であった。前年度から行ってきた「社会的場面における自己注目と脅威モニタリングの指標作成」を今年度も継続して行っていたため、SARの介入研究は予備的検討に留まってはいるが、本研究によって、介入プロトコルに含めるべき構成要素について理解を深めることができた。また、指標の確立を通して、従来は明らかにされていなかった、自己注目や脅威モニタリングという非機能的な活動を社会的場面における脳の活性化によって捉えることができた。これらの理由から、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、今年度の研究成果をふまえて状況への再注意法(Situational Attention Refocusing: SAR)の介入プロトコルを修正し、介入手順を確定させる。そして、SARや注意訓練法(Attention Training Technique: ATT)を用いた介入研究を実施し、SARとATTの相加・相乗効果についても検討していく。なお、介入効果を検証する際には、これまでに作成した自己注目と脅威モニタリングに関わる心理指標や、社会的場面における脳活動や視線の活動を測定することで、注意の変容プロセスについても明らかにしていく。さらに、研究成果の発表も適宜進め、年度末の報告書執筆につなげていくようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)旅費の支出が少なかったことによると考えられる。 (使用計画)次年度使用額は116,254円と、所要額全体に占める割合は大きくないので、当初の使用計画に沿って支出していく。
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