研究課題/領域番号 |
16K04393
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
松本 圭 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (40367446)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | いじめ / 脳機能 / 認知機能 / ライフイベント / 外傷後成長 |
研究実績の概要 |
本研究は、過去のいじめ被害経験が成人期にまで及ぼす長期的影響を調査研究によって明らかにすること、さらに、いじめ被害経験の有無がコミュニケーションに関わる認知・脳機能に与える影響を実験的に検討することを目的としている。平成29年度は、1)いじめ被害経験の長期的影響の調査(いじめ被害経験者のスクリーニングを兼ねる)と、2)いじめ被害経験者に対する調査とインタビューの継続、3)H28年度に作成した実験課題を用いたNIRS実験を行った。 1)については、H28、29年度を合わて310名を対象として調査を行った。精神健康のネガティブな側面を測定するGHQ30、および、ポジティブな側面を測定するPERMA-Profilerを従属変数、いじめ被害経験等のライフイベントを独立変数とする重回帰分析の結果、いじめ被害経験がポジティブ・ネガティブ両面に渡って長期的な悪影響を及ぼしうること、また被害時の感情の強さの悪影響の程度に対する寄与は小さく、被害当時に本人が感じている感情的衝撃の強さに関わらず、早期の支援が必要であることが示唆された。 2)については、1)の対象者の内、いじめ被害経験を有する者15名を対象として、トラウマの程度を測定するIES-R、トラウマ後成長を測定するPTGI-Jを実施すると共に、インタビュー調査を行った。その結果、トラウマの程度と外傷後成長は有意な正の相関を示し、いじめ経験者が苦悩と同時に人間的成長も経験していること、またインタビューからはそれらが対人関係の領域で顕著であることが示された。 3)hについては、20名の大学生を対象として、NIRSを用いた語彙流暢課題を実施した。その結果、対象者の社交不安の程度によって、課題中の前頭前野の脳血流に違いがみられることが明らかとなった。この違いは、高社交不安者の不安抑制にまつわる活動の結果であると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いじめ経験の長期的影響の調査、いじめ被害経験者を対象とした調査とインタビューに関しては当初の予定通り対象者を募り、調査を実施、分析ができている。ただし、いじめ被害経験者を対象としたNIRS課題についてはまだ対象者数が十分でなく、現時点では対象者を、いじめ経験と関連が深いと考えられる社交不安の程度によって群分けし、比較する分析に留まっている。H30年度は引き続きスクリーニングを兼ねた調査を継続し、NIRS実験への参加者を増やすことで、いじめ被害経験の有無を独立変数として、脳血流の差異を検出できるような実験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H28、29年度を通して、ライフイベント(いじめ被害経験を含む)の調査を実施した対象者は310名に上るが、その内、いじめ被害経験者は約3割(90名程度)で、続く調査、実験への参加承諾が得られた対象者はさらにその3割程度(30名程度)であった。また日程の都合なども考え合わせると、実際に参加が可能な対象者は20名程度であった。H30年度も、H28、29年度と同程度数の300名ほどを対象とした調査を行い、30名程度の調査、実験参加者を得ることで、分析に耐えうる対象者数を確保する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の3つの研究成果の発表を1つの学会で行えたこと、平成29年度に購入予定としていたパーソナルコンピュータと実験刺激呈示用のディスプレイが当初の予定よりも安価に購入できたこと、実験対象者となるいじめ被害経験者が20名程度となり、実験参加者に対する謝金の支出が予定よりも少なくなったことなどが差額が生じた原因と考えられる。 平成30年度は、この差額を用いてより多くの実験参加者を対象とすること、作業効率化のために結果分析用にPCを購入することを予定している。
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