研究課題
本研究は、過去のいじめ被害経験が成人期にまで及ぼす長期的影響を調査研究によって明らかにすること、さらに、いじめ被害経験の有無がコミュニケーションに関わる認知・脳機能に与える影響を実験的に検討することを目的としていた。平成30年度は、1)いじめ被害経験の長期的影響の調査(いじめ被害経験者のスクリーニングを兼ねる)の対象者追加(約200名)と、3)H28年度に作成した実験課題を用いたNIRS実験の参加者追加(約20名)を行った。その結果、平成29年度までに得られた知見が追試され、それらの知見の信頼性を高めることができた。研究期間全体では大きくは3つの研究成果が得られた。1)いじめ被害経験の長期的影響については、大学入学までのいじめ被害経験が、精神健康のポジティブ・ネガティブ両面に渡って長期的な悪影響を及ぼしうること、また被害時の感情の強さの悪影響の程度に対する寄与は小さく、被害当時に本人が感じている感情的衝撃の強さに関わらず、早期の支援が必要であることが示唆された。2)いじめ被害経験者に対する調査とインタビューを通して、いじめ被害経験のトラウマの程度と外傷後成長は有意な正の相関を示し、いじめ経験者が苦悩と同時に人間的成長も経験していること、またインタビューからはそれらが対人関係の領域で顕著であることが示された。3)いじめ被害経験と関連する社交不安と脳機能の関係については、対象者の社交不安の程度によって、課題中の前頭前野の脳血流に違いがみられることが明らかとなった。この違いは、高社交不安者の不安抑制にまつわる活動の結果であると推測された。これらの結果から、いじめがもたらす脳・認知機能への長期的な影響が示されたといえる。今後はこれらの影響を考慮したアセスメントや介入方法の開発が必要である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Occupational Health
巻: 60 ページ: 383-393
https://doi.org/10.1539/joh.2018-0050-OA