バイオフィードバックを通じて心拍変動を増大させると、自律神経障害やストレスに関わるさまざまな症状(特に抑うつや不安)が緩和することが報告されている。この臨床的効果の背景には、心拍変動の増大による圧受容体反射機能の活性化が仮定されているが、実際的な検討は少ない。本研究は、1)心拍変動の増大によって圧受容体反射の感度が増加するか(心拍変動の増大が自律系ホメオスタシス機能を向上させるか)、2)心拍変動の増大によって脳波の随伴性陰性変動が変化するか(心拍変動の増大によって引き起こされた自律神経機能の変化が中枢過程に影響するか)を検討することを目的とした。 平成28~29年度までに圧受容体反射感度および脳波の随伴性陰性変動の評価システムを構築して上記1)および2)について検討し、平成30年度においても継続して観察した結果、これらの指標に有意な変化が認められた。このことから、心拍変動増大が自律神経機能を刺激していること(論文投稿中)、さらに、この種の内的な刺激が脳波の陰性変動に反映される認知(注意)過程に影響を及ぼしていることが示唆された(発表準備中)。これらの知見は心拍変動の増大に関わる臨床的効果の妥当性を心理生理学的な側面から示している。 平成30年度の検討においては、一方で、ネガティブな刺激に対する認知過程(3オドボール課題に対する脳波変化)を評価する手続きを確立し、脅威刺激に対する注意の捕捉(より無意識的な注意)を観察できるようにした(論文掲載)。今後、心拍変動の増大がこのような認知過程(臨床場面で扱うことの多いネガティブな認知やバイアス)を調整することができるかどうか検討する予定である。
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