研究課題/領域番号 |
16K04397
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研究機関 | 人間環境大学 |
研究代表者 |
高橋 昇 人間環境大学, 人間環境学部, 教授 (10441619)
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研究分担者 |
高橋 靖恵 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (90235763)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心理テストバッテリー / 対象関係投映法 / 知能検査 / 描画法 / 風景構成法 / 心理療法 |
研究実績の概要 |
当該年度には三分類に亘って研究を進めてきた。1.発達障害者の知能検査と予後調査により、より良いかかわりと検査の内容について明らかにすること。幸田町教育相談室において、研究協力者とともに500余名のWISC-Ⅲ及び心理療法実施者の中から11名の発達障害者を選択し、知能検査、セラピー、学校や親などのかかわりの視点から要因を探索的に研究した。ここでは知能検査の複数実施の結果が上昇した者、下降した者、変化が見られない者という三種に分類され、それぞれ要因が明らかにされた。心理検査の結果は、その時々で対象者が周囲の世界にかかわっていく時の指標になり、有効な心理検査実施の時期による変化を見る視点が重要であることが示唆された。この成果は平成29年度の日本心理臨床学会で報告する予定である。 2.ORT(対象関係投映法)を日本に導入し、適用を考えることでより良い心理検査技法の開発を行うこと。連携研究者の黒田浩司(山梨英和大学)は、学生への実施を通して、日本人健常大学生の検査場の特徴を明らかにし、日本ロールシャッハ学会において、ORTの日本への紹介をした。これにより、ロールシャッハ法などの投映法との異同や、分析手法の特徴などが明らかにされた。そして、研究代表者及び研究分担者の高橋靖恵(京都大学)により、健常大学院生を対象にORT及び、ロールシャッハ法を施行し、両者の相違について検討した。この結果は平成29年度国際ロールシャッハ学会(於:パリ)において発表される予定である。 3.ORT、及びロールシャッハ法を含む臨床事例を対象としての心理検査実施について、実施準備中である。具体的には、精神科病院(医療法人資生会八事病院)に研究実施依頼を出し、研究倫理審査申請書を提出する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画はおおむね計画通り進んでおり、4点に分けて述べていく。 1.発達障害者に対する心理検査について、知能検査と周囲の環境、時間的な経過に伴う発達とかかわりについて、過去の資料についての振り返りから、問題点と発達について何がその促進要因なのか、明らかにすることができた。平成28年度には幸田町教育相談室にかかわる教員、養護教諭、臨床心理士を対象とした研修会の中で検査結果の一部を紹介した。次年度に向けてそれらの結果を報告すべく、幸田町教育相談室のスタッフを研究協力者として発表の準備を進めている。 2.ORT(対象関係投映法)に関して、邦文のマニュアルが出版されていないことから、邦訳をして日本国内に広める方向で研究を進めてきており、下訳を業者に依頼しながら、出版社を探しているところである。同時に健常青年への実施を進めている臨床事例への施行準備を進めている。また健常大学生と大学生についての結果を、多数事例の結果、及び個別事例に関してのロールシャッハ法と比較しての研究を進めている。そしてこの結果を国際ロールシャッハ学会に提出するべく、討論を重ねてきている。 3.心理テストバッテリーとして、幸田町適応指導教室で施行されてきた描画法をWISC-Ⅲと合わせて精査してきたが、バウムテストや自由画などでは一貫した結果編が見えにくく、それぞれのプレイセラピーの中では有用であるものの、全体として一定の知見を見いだすことが難しいことが理解された。そこで、WISC-Ⅲと共に描画法の中でも枠組みが明確で情報量の多い風景構成法を導入するべく、準備を進めてきた。 4.臨床事例の中で投映法がもっとも有用な場の一つである精神科臨床でのテストバッテリーは意義が大きい。ロールシャッハ法と風景構成法、その他TEGやSDSなどを試験的に行いながら、ORTの導入も考慮に入れつつ、研究を重ねている。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」において述べてきたところを、今後さらに推進していく所存である。以下3点について述べていきたい。 1.発達障害者の心理検査に関して、幸田町適応指導教室を中心に進めていく。現在までの知見で、経年的に周囲の教育、生活環境が発達に重要であることが理解されている。これは今年度の日本心理臨床学会において発表する予定である。今後は検査結果と経年変化、及び発達的な環境との関わりが重要であることを鑑み、経年的な心理検査の施行を考えていく。それについては、発達障害者への理解に不可欠な知能検査とともに、プレイセラピー中での風景構成法など投映技法を併用して実施し、より良い効果的な検査について考えていく。 2.ORT(対象関係投映法)マニュアルの邦訳を進め、出版準備をしていく。そして、この技法の日本での適用を徐々に進め、対象者を健常者から臨床事例に拡大していく。臨床の現場ではすでに心理検査などは施行されているが、ここにORTが新しい視点として機能するのかがまず問われることになる。そこで、対象者に施行する過程で、ORTがどのような検査で何がわかるのかを精査していくことが必要である。その後、どのようなテストバッテリーが好ましいか、どのように有効かを考えていく。これまでの成果については、今年度国際ロールシャッハ学会において発表していく。 3.研究代表者は投映技法である風景構成法に、「穴」という項目を付加して実施するという「穴のある風景構成法」を提唱しており、この技法の有効性についても研究を進めていく予定である。具体的には健常者への施行、臨床事例への施行の中で有効性や経年的施行での意義を考えていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画が2年目となり、初年度準備をしていたものが、実際の研究活動と成果発表につながっていくことになる。実質的な研究活動には、発達障害者への臨床活動を含めた研究協力者と共に行っていくことになる。精神科病院での実施も活動が始められることとなる。それらへの研究協力者も必要になってくる。そして、研究分担者、連携研究者と共にORTに関する対象者への検査実施と、研究成果発表のための学会参加も必要となる。発表場所は日本心理臨床学会、日本ロールシャッハ学会、国際ロールシャッハ学会、日本描画テスト・描画療法学会になる予定である。ORTに関しては、マニュアルを日本に導入するために翻訳をしていくことになる。 そして、成果発表は学会発表後に論文としてまとめていく作業に入っていく予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
発達障害者への研究に関しては、研究協力者との会議における会議費が必要である。成果発表場所は日本心理臨床学会の予定であり、学会参加への旅費が必要となる。研究分担者、研究協力者との会議費、それぞれの資料収集やデータ整理のための人件費が必要となる。必要な事務用品、パソコン用品、文献、心理検査用紙、マニュアルなどの費用も必要である。 また心理検査実施のための人件費も計上したい。ORTについては翻訳、出版準備の費用、そして成果発表は国際ロールシャッハ学会において行う予定なので、参加費、旅費が必要である。ORT及びロールシャッハ法、描画法の臨床事例への施行は、それを依頼するための人件費も計上したい。ロールシャッハ法及び描画法に関する発表は、日本ロールシャッハ学会にて行う予定であり、会議も含めて研究代表者、研究協力者の参加費用と旅費が必要となる。
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