研究課題
本研究は,臨床心理学的介入による生活習慣の改善と心理生物学的ストレス反応の軽減との関連性を,フィールド調査,実験室実験及び介入実践研究を用いて検証することを目的とした。本年度は,(研究2)フィールド調査にて,望ましい生活習慣を実施している個人と実施していない個人を抽出し,実験室でのストレス負荷実験による心理生物学的ストレス反応を比較検証した。(研究3)生活習慣を改善させる心理教育やワークシートを用いた介入及びセルフモニタリング学習を実施し,心理生物学的ストレス反応の変化を検証した。(研究2)フィールド調査によって大学生を対象に生活習慣に関する質問紙を実施し,望ましい生活習慣を実施している個人と実施していない個人を抽出し実験参加者とした。実験は10分間の順応期,10分間のストレス負荷(スピーチ課題と暗算課題)及び30分間の回復期にて実施した。望ましい生活習慣を実施している個人ほど,回復期において心拍数とHF波の順応期の水準に戻る回復性が早かった。なお,その他の動態についても平成30年度の研究結果とほぼ同様であった。以上の知見は,日常での生活習慣が心理生物学的ストレス反応の動態と関連することを示唆している。(研究3)福祉施設に勤務している労働者を対象に,研究2と同様の質問紙調査を実施し,望ましくない生活習慣を実施している個人に対して介入研究の参加を呼びかけ同意の得られた50名を対象者とした。はじめに,生活習慣の改善に関する心理教育のレクチャーを受けてもらった。その後1ヶ月間,就寝前に1日をふりかえるセルフモニタリング学習を行ってもらった。介入後に生活習慣に有意な変化は認められなかったが,一部の参加者では,ワークストレスの減少など介入の効果を観察できた。次年度の介入実践研究において,介入内容を再検討して,生活習慣の改善を促すという課題が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初のスケジュール通り,①フィールド-実験研究及び②臨床心理学的介入実践研究の二つの研究を実施し,研究成果を得ることができた。フィールド-実験研究では,対象者のスクリーニングも順調に進み,前期中にストレス負荷実験を終了させ,夏期休業中に唾液バイオマーカーの測定を行い,10月以降には結果の分析に専念することができた。なお,研究成果の一部は学会発表を行った。介入実践研究は,福祉施設にて勤務している社会人を対象に質問紙調査を実施し,望ましくない生活習慣を行っている対象者を抽出した上で,プロトコールに従って介入を行った。介入前後で質問紙調査,唾液バイオマーカー等の変化を検討することができた。以上の点からおおむね順調に進展している。
平成31年度(令和元年度)は,臨床心理学的介入実践による生活習慣の改善の効果検証および最終年度としてのまとめを行う。対象者:平成30年度と同様に生活習慣の状況が望ましくない(ストレス反応,睡眠状況,運動習慣,血圧等にてスクリーニング)50名をランダム化比較対照条件にて,介入群と対照群に振り分ける。手続き:対象者は,はじめに生活習慣を改善することによるメリット等についての心理教育(90分)を集団にて受けてもらう。その後,1ヶ月間の介入期間を設定し,週1回のワークシートを用いた介入プログラム(川上ら,2015)を行うとともに,1日のふりかえりを基に設定されたセルフモニタリング学習及び毎日決まった時間に運動としてラジオ体操を実行してもらう。介入群は,2週目に臨床心理士(公認心理師)による動機づけ面接(20分程度)に参加し,セルフモニタリング状況についてフィードバックを行うとともに種々のアドバイスを受けることで生活習慣の改善を促進させる。アセスメント:介入前後及び介入終了後3ヶ月後(フォローアップ時)に質問紙,唾液を採取しコルチゾール等の測定及び細小血管スティフネスと細小血管内皮機能により血管健康査定(田中ら,2018)を行う。最終年度としての3点についてまとめる①フィールド調査研究:生活習慣の状況と心理社会的要因や健康状態に関する質問紙調査及びバイオマーカー(唾液コルチゾール,free-MHPG,s-IgA)との関連性を検証しメカニズムを解明する。②フィールド-実験研究:フィールド調査にて,望ましい生活習慣を実施している個人と実施していない個人を選抜し,実験室場面での心理生物学的ストレス反応パターンの差異を検証する。③臨床心理学的介入実践研究:生活習慣を改善させる心理教育やワークシートを用いた介入及びセルフモニタリング学習を実施し,心理生物学的ストレス反応の変化を検証する。
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